半導体装置はどこまで輸出可能?輸出規制の範囲と該非判定・キャッチオールの実務整理
結論から言うと、半導体製造装置の輸出は「全面禁止」ではありません。ただし、装置の種類(工程)、性能・仕様、輸出先、需要者、用途によって、許可が必要になる範囲が大きく変わります。近年は米国の規制強化(2022年10月以降の一連の輸出管理強化)を背景に、同盟国・同志国も足並みをそろえる形で管理が厳格化しており、日本でも半導体製造装置を含む品目の輸出管理が拡大しています。
この記事では、初心者でも判断の道筋を描けるように、「どこまで輸出可能か」を実務目線で整理します。最終判断は法令・通達の最新文言と個別案件の事実関係に依存するため、社内の輸出管理部門や専門機関(CISTEC等)への確認も前提にしてください。
なぜ今、半導体装置が厳しく見られるのか
半導体装置は民生分野の生産設備である一方、先端軍事・監視・サイバー能力にも直結するため、典型的なデュアルユース(軍民両用)分野として扱われます。米国は2022年10月(いわゆる10/7措置)以降、先端半導体・先端計算(AI等)と、関連する製造装置・技術への輸出管理を強化してきました。2023年10月にも追加強化が公表され、抜け道を塞ぐ形で制度が積み上がっています。
日本側でも、経済産業省が半導体製造装置について輸出管理対象を追加する方針を示し(23品目の追加など)、制度運用はより実務負荷が高い方向へ進んでいます。つまり「装置だから大丈夫」ではなく、「どの装置で、どんな仕様で、どこへ、誰に、何に使われるか」を説明できる体制が必要になっています。
半導体装置はどこまで輸出可能?判断の全体像
輸出の可否は大きく次の順番で整理すると、迷いにくくなります。
- リスト規制に該当するか(該非判定)
- 該当する場合、許可が必要か(仕向地、用途、需要者、例外の有無)
- 非該当でもキャッチオール規制で許可が必要か(用途・需要者の確認)
つまり、実務上の答えは「装置の工程名」だけでは決まりません。装置の性能閾値、機能、対象プロセス、精度、制御ソフトの仕様などの“技術要素”で決まります。
まず押さえる:日本の輸出管理は「リスト規制+キャッチオール規制」
日本の安全保障貿易管理は、外為法に基づき、輸出貿易管理令(輸出令)や外国為替令(外為令)、および貨物等省令・通達などで運用されています。ポイントは次の2つです。
- リスト規制:法令の別表に定める貨物・技術(該当なら原則許可が必要)
- キャッチオール規制:リスト非該当でも、用途・需要者によって許可が必要になる
前記事で該非判定の基本を扱った前提で、ここでは「装置のどこが引っかかりやすいか」と「現場がやるべき確認」を、もう一段具体化します。
工程別に見た「規制対象になりやすい装置」のイメージ
半導体製造装置は工程が多く、規制対象も一部の工程・一部の性能に集中する傾向があります。一般に、より先端ノードに直結しやすい“前工程”ほど規制の焦点になりやすい一方、後工程でも検査・計測など高性能なものは対象になり得ます。
前工程で要注意になりやすい領域
- リソグラフィ関連(露光・関連装置、制御・補正)
- エッチング、成膜(CVD/ALD等)、洗浄、熱処理などのプロセス装置
- イオン注入、拡散、エピ成長など高精度条件が絡む装置
後工程・周辺でも油断できない領域
- 高精度な検査・計測(欠陥検査、寸法計測、解析)
- 先端パッケージ関連の装置(高密度実装に直結する設備)
- 製造を支える設計・製造関連ソフトやプロセスレシピの技術提供
ここで重要なのは、同じ「エッチング装置」でも、性能・仕様によって該当/非該当が分かれる点です。装置名だけで結論を出さず、仕様書やメーカー資料を基に、条文上の要件(性能値や機能要件)に照合する必要があります。
中国向け輸出はどこまで可能か
よくある誤解として「中国向けは全部ダメ」がありますが、実態はそう単純ではありません。実務上は次のように分解して考えます。
- 該当品かどうか(該非判定)
- 仕向地がどこか(中国に限らず全世界向けが対象となる管理もあり得ます)
- 需要者は誰か(懸念需要者リスト等の確認)
- 用途は何か(軍事転用・大量破壊兵器等、またはその懸念)
該当品であれば、原則として許可が必要になります。非該当でも、用途・需要者の状況によってはキャッチオール規制の対象となり得ます。特に、取引先が研究機関・先端製造を行う企業・軍民転用が疑われるプロジェクトに関与する場合は、慎重な確認が求められます。
また、米国規制では「米国原産技術の含有」や「米国の規制対象技術の利用」などで域外的に影響が及ぶ場合があります。日本企業でも、装置構成部品やソフト、設計ツールなどで米国規制が関係することがあるため、サプライチェーン全体の整理が重要です。
実務で必ずやるべき:該非判定の進め方(装置編)
装置の該非判定は、部材よりも「性能条件」「機能」「用途想定」の整理が重くなりがちです。初心者向けに、現場で事故が起きにくい順番でまとめます。
1) まずは装置の“仕様確定”をする
カタログだけでは足りません。仕様の幅(オプション構成で性能が上がる、ソフトで機能が解放される等)を含めて、輸出する形態を確定します。中古装置でも、改造・更新・ソフト追加で該当になる場合があります。
2) メーカー資料・該非判定書を取得する
メーカーが該非判定書を発行している場合は必ず取得します。ただし、最終責任は輸出者にあるため、対象モデル、構成、発行日、根拠条文、適用範囲(オプション含むか)を確認してください。
3) 条文上の要件に照合し、根拠を残す
装置名で探すのではなく、条項の技術要件(性能値・機能要件)に対して、仕様書のどの値が対応するかを表形式で整理すると、監査や社内説明が通ります。
4) 判定結果を保存し、更新ルールを決める
輸出管理は改正があり得ます。判定書や根拠資料に「いつの法令・通達に基づくか」を明記し、改正時に再判定する運用(例えば半年ごとの棚卸し)を作ると安全です。
キャッチオール規制:非該当でも“許可が必要”になる典型パターン
非該当であっても、用途や需要者に懸念があれば許可が必要になるのがキャッチオール規制です。装置の場合、次のような場面で判断が難しくなります。
- 用途が曖昧(最終製品、最終工場、最終ユーザーが見えない)
- 再輸出・転売の可能性が高い取引形態(商社経由で説明が弱い等)
- 研究開発用途で、成果物や適用領域が広い
- 需要者が懸念リストに該当、または関連企業が多い
対策としては、用途確認書の取得、需要者チェック、エンドユーザー証明、再輸出制限条項の整備など、社内の輸出管理フローに落とし込むことが重要です。
よくある誤解と注意点
誤解1:半導体装置は全部NG
全面禁止ではありません。該当・非該当、用途・需要者、仕向地により許可要否が変わります。まずは該非判定の土台を固めるのが近道です。
誤解2:非該当なら何も確認しなくていい
キャッチオール規制があるため、非該当でも用途・需要者確認が必要です。むしろ事故が起きやすいのは「非該当だから」と確認が薄くなるケースです。
誤解3:中古装置なら規制が緩い
中古でも該当は該当です。加えて、ソフト更新や改造、付属品追加で仕様が変わることがあります。輸出形態で仕様確定してから判断してください。
まとめ:半導体装置は「工程×性能×相手先×用途」で決まる

半導体装置の輸出可否は、装置名だけで判断できません。工程(どの装置か)に加えて、性能・仕様(条文の要件に該当するか)、輸出先、需要者、用途確認まで含めたセットで判断します。特に近年は規制が積み上がっており、過去に非該当だった装置が、改正により該当になる可能性もあります。
実務の第一歩としては、(1) 仕様確定、(2) メーカー該非判定書の取得、(3) 条文照合と根拠保存、(4) 用途・需要者チェックの定着、の順で体制を作るのがおすすめです。判断が難しい場合は、社内の輸出管理部門、CISTEC、または専門家へ相談し、最新の公的情報に基づいて進めてください。
参考外部リンク
- 経済産業省|安全保障貿易管理:改正情報
輸出管理関連の改正・通達等の一覧 - METI|Minister press conference(半導体製造装置23品目の追加方針)
23品目追加の背景と方針(英語) - U.S. BIS|2023年10月の輸出管理強化(半導体製造装置等)
米国による規制強化の概要 - Federal Register|2022年10月の追加輸出管理(米国)
2022年10月(10/7措置)に関する一次情報 - 経済産業省|外為法に係る改正(重要・新興品目等)資料(PDF)
近年の改正背景と考え方の整理