POPとPast Performanceの提供時期

POPとPast Performanceの提供時期

POPとPast Performanceは提出する時期で変わる信用価値についてのご紹介です。

基本的な位置づけ

両方とも信用確認に用いられますが、提出する時期によって評価の重みが大きく変わる点が特徴です。

SPA締結前の書類提出

POPの評価

SPA(Sales and Purchase Agreement)締結前にPOPが出される場合、実務上は「信用できない」と見なされるケースが多いです。
理由はシンプルで、売主はSPA締結後に初めて商品を手配したり、品質検査を行うことが多いためです。SPA前にPOPが提示されると「まだ存在していない商品を証明しているのでは?」と疑念を持たれるのです。

実際に「契約前にPOPを出す」と主張した売主がいましたが、後で調べると在庫を持っていないブローカーでした。このため、SPA前に出されたPOPはむしろリスクシグナルと解釈されることもあります。

Past Performanceの評価

一方で、SPA締結前に有効なのは Past Performance です。

過去の取引実績は、今回の案件に直接結びつくものではありませんが、「履行能力があるかどうか」を判断する参考になります。SPA前の信用調査においては「過去にきちんと取引を履行した実績があるか」を確認するのが自然な流れです。

SPA締結後の書類提出

POPの評価

SPAを締結した後は、POPの価値が高まります。
この段階では、契約内容に沿った商品が実際に用意され、品質検査や在庫確認が行われるため、POPは「契約を裏付ける証明」として有効に機能します。

Past Performanceの評価

逆に、SPA締結後にPast Performanceを提出しても意味は限定的です。
過去の取引実績はあくまで参考資料であり、現在の契約内容を確実に履行できることを保証するものではないからです。

提出時期と価値の整理

提出時期POPの価値Past Performanceの価値
SPA前信用度が低い
(存在しない商品を証明している疑念)
信用調査に有効
(過去の履行能力を確認できる)
SPA後高い信用価値
(契約を裏付ける証拠)
意味が薄い
(契約の履行を保証できない)

他のケース・補足情報

  • 銀行関与の取引では、POPは基本的にSPA後でないと銀行が受け付けない。早すぎるPOPは「偽造の疑い」と見られることが多い。
  • 大口資源取引(石油・鉱石など)では、Past Performanceが事前審査の鍵になる。逆に提示できない売主は「経験不足」、または商品の所有権など販売できる権利と履行能力がないと見なされやすい。
  • 一部の小口取引では、買主の強い要求で簡易POP(PPOP)がSPA前に出されることがある。ただしこれは「安心材料」であり、法的拘束力は弱い。
  • ICC(国際商業会議所)のガイドラインでも、POPは基本的に契約成立後に提示されるのが妥当とされる。

買主のための時系列チェックリスト

海外取引で「どの段階でどの書類を要求するべきか」を整理すると以下の通りです。

取引前(交渉初期・LOI/ICPO提出段階)

  • CIS(会社情報書類) を要求し、相手企業の存在と信頼性を確認
  • Past Performance(過去実績) を要求し、取引履行の経験を確認
  • POPはこの段階で要求しない(信頼度が下がるケースがある)

SPA締結前(条件交渉の最終段階)

  • Past Performanceの裏付け書類(B/Lや銀行レター)が揃っているか確認
  • 売主の供給能力の整合性(数量・納期が過去実績と矛盾しないか)をチェック
  • POPは基本的にこの段階では要求しない(例外はPPOP=部分証明のみ)

SPA締結後(契約成立後)

まとめ

  • SPA前はPast Performanceが有効(相手の履行能力を測るため)
  • SPA前のPOPは逆に疑念を生むことが多い
  • SPA後はPOPが有効(契約の裏付けとなる証拠として)
  • Past PerformanceはSPA後に出しても保証力がない
  • タイミングを誤ると、かえって信用を失うこともある

国際取引では、書類そのものよりも「出されるタイミング」によって価値が大きく変わります。適切な時期に適切な書類を要求・提示すること、正しい時期に正しい書類を要求することが、スムーズで信頼性の高い取引につながるのです。

2023年8月29日 | 2025年9月9日