海外企業との商取引では、商品価格・数量・納期と同じくらい重要なのが「支払い条件」です。
支払い方法は単なる決済手段ではなく、売り手と買い手のどちらがどの程度リスクを負うかを明確にし、取引の安全性を左右します。特に初回取引や高額取引では、適切な条件を選ばないと代金未回収や貨物受取遅延などのトラブルに直結します。
本記事では貿易実務で一般的な4つの送金条件「TT」「CAD」「DA」「DP」について、仕組み・流れ・メリットとリスクを専門的に整理します。初心者でも理解しやすいように、貿易書類や船積みの流れと関連付けながら解説します。
1. 送金条件とは何か
送金条件とは、売り手と買い手が「どのタイミングで代金を支払うか」「書類はどのように引き渡されるか」を示すものです。
貿易では、貨物が海上や航空機で移動している最中に代金支払いを行うことも多く、国内取引よりも時差・距離・書類管理などの要素が複雑になります。そのため、支払方法ごとの流れを理解しておかないと、資金調達や信用リスクの見極めが難しくなります。
代表的な方式として以下の4つがあります。
・TT(Telegraphic Transfer)
・CAD(Cash Against Documents)
・DA(Documents Against Acceptance)
・DP(Documents Against Payment)
それぞれの方式はどれが優れているというわけではなく、取引関係・金額・国の商習慣によって向き不向きがあります。
2. TT(Telegraphic Transfer / 電信送金)
TTは銀行の国際送金を通じて代金を支払う最もシンプルな方法です。
貿易では以下の2形態が主に使われます。
2-1. TT Advance(前払い)
買い手が先に代金を支払い、その後に売り手が商品を出荷します。
売り手にとって非常に安全な方法で、初回取引や小切手代わりとして使われることが多いです。
ただし買い手からすると、事前に資金を支払うため、相手が確実に出荷するかどうかは信用に依存します。初回でTT Advanceを希望される場合は、相手企業の情報を事前に調べることが重要です。
2-2. TT After Shipment(船積後払い)
売り手が貨物を出荷し、船積書類(B/L・Invoice・Packing Listなど)を買い手へ送付し、買い手はその後支払います。買い手にとっては資金繰りがラクになる一方、売り手には未払いリスクがあります。
TTが向くケース
・長年の取引があり相手の信用力が高い
・少額・高回転の商品
・早く出荷したいケース
・金融機関を介した複雑な書類交換が不要な取引
3. CAD(Cash Against Documents / 書類渡し条件)
CADは「代金支払いと書類の引渡しを同時に行う」方式です。書類の受け渡しを必ず銀行を通じて行うため、TTよりリスクが抑えられます。
3-1. 流れ
- 売り手が商品を出荷
- 売り手は船積書類を自国の銀行へ提出
- 銀行が書類を相手国の銀行へ送付
- 相手銀行が買い手に代金支払いを要求
- 買い手が支払うと書類を受け取り、貨物引取が可能に
3-2. 特徴
・売り手は書類を握っているため比較的安全
・買い手は到着時に支払いが必要で資金拘束が起きやすい
・銀行が介在するため、取引管理の透明性が高まる
CADは中規模取引でよく使われ、TTより慎重に進めたい場面に適しています。
4. DA(Documents Against Acceptance / 引受渡し)
DAは買い手が「為替手形を受け取り、将来の支払いを約束する」ことで書類を引き渡す条件です。
4-1. 流れ
- 売り手が出荷
- 売り手が書類と為替手形を銀行へ提出
- 買い手の銀行が「手形の支払いを期日に行うこと」を買い手に求める
- 買い手が承諾し、書類を受領
- 買い手は貨物を引き取る
- 支払期日に買い手が手形を決済
4-2. リスク
・売り手は貨物を既に受け渡しているため、手形不払いが起きると回収が難しい
・信用調査が前提となる方式
・長期で支払い期日を設定できるため、買い手の資金繰りはラクになる
DAは「売り手が買い手を強く信用している」場面でしか使われません。
5. DP(Documents Against Payment / 支払渡し)
DPは買い手が支払いを完了するまで書類を受け取れない方式です。
5-1. 流れ
- 売り手が商品を出荷
- 書類を銀行に提出
- 銀行が買い手へ書類を提示
- 買い手が支払う
- 書類が引き渡され貨物を引取可能に
5-2. 特徴
・売り手にとって安全性が高く、TTよりリスクが低減
・買い手側は貨物到着時点で支払う必要があり資金繰りに影響
・書類を通じて支払いがコントロールされるため、トラブルが起きにくい
DPは初回取引や一定の信用を確保したいケースでよく選ばれます。
6. 4方式の比較表
| 条件 | 売り手リスク | 買い手リスク | 必要資金タイミング | 向く場面 |
|---|---|---|---|---|
| TT Advance | 非常に低い | 非常に高い | 出荷前 | 初回・小口・リスク回避 |
| DP | 低い | 中 | 到着時 | 初回・中規模取引 |
| CAD | 中 | 中 | 到着時 | 書類管理を重視 |
| TT After Shipment | 高い | 低い | 出荷後 | 信頼関係のある相手 |
| DA | 非常に高い | 低い | 支払期日 | 長期信用取引 |
7. どの条件を選ぶべきか
7-1. 初回の海外取引
安全性を最優先し、TT Advance または DP を選ぶことが多いです。
売り手は未回収リスクを避け、買い手は書類を確実に受け取れます。
7-2. 取引相手と長期の関係がある
CAD や TT After Shipment が選ばれ、実務面でのスピードと柔軟性を重視できます。
7-3. 取引額が大きく、買い手の資金繰りに配慮したい場合
DA が選択肢に入りますが、売り手の信用リスクが高いので、企業調査や貿易保険の利用がほぼ必須です。
8. 実務でよくあるトラブルと注意点
8-1. DA の手形不払い
買い手が支払い期日に資金不足となるケースがもっとも多いトラブルです。
貨物は既に買い手が引き取っているため、売り手は事実上回収が難しくなります。
8-2. DP での書類受取遅れ
買い手の銀行処理が遅れ、港で貨物が滞留して余計な費用(デマレージ・保管料)が発生することがあります。
8-3. TT After Shipment での未払い
相手の事情で支払いが遅れると、売り手は書類を送付済みのため手元に担保がありません。初回や相手の信用が不明確な場合には避けた方が安全です。
8-4. CAD の書類瑕疵
Invoice や Packing List の不備があると、銀行で修正手続きが必要となり貨物引取が遅れます。貿易書類の作成は正確さが重要です。
9. まとめ

送金条件の選択は、海外取引における最重要事項の一つです。TT、CAD、DA、DPはいずれも特徴が異なり、適切な条件を選ばないと資金トラブルや未回収問題が発生します。特に初回取引では、安全性の高い方式を採用し、相手の信用情報を確認しながら徐々に条件を緩和するのが一般的な進め方です。
取引額・商品特性・納期・相手の信用度を総合的に判断し、最適な送金条件を選ぶことで、海外企業とのビジネスを安定的に成長させることができます。
▼補足コラム:海外取引で参考になる公式情報リンク
海外企業との取引では、送金条件(TT / CAD / DA / DP)の理解に加えて、信頼できる外部資料を参照すると実務判断がしやすくなります。以下は企業や公的機関が公開しているもので、商取引の基礎を整理する際に役立ちます。
◆ 海外送金の仕組みを確認したいとき
日本の主要銀行は、国際送金(TT)の流れや必要書類を公式サイトで解説しています。
手数料・SWIFTコードなど実務でよく使う情報が整理されているため、初めて海外送金を行う担当者にもわかりやすい資料です。
参考:
・三菱UFJ銀行「海外送金のご案内」
・三井住友銀行「外国送金について」
・みずほ銀行「海外送金サービス」
◆ 書類の役割を深く理解したいとき
国際輸送を手がける物流企業では、貨物輸送と書類の流れをまとめたガイドを提供しています。
B/L(船荷証券)やインボイスの扱いを理解することで、CAD・DP・DAとの関係がより明確になります。