HSコードにおける「部(Section)」は、類(Chapter)を体系的にまとめた最上位区分のひとつです。第2部は「植物性生産品」と呼ばれ、農産物を中心とした植物由来の製品が分類されます。国際貿易においては、食料品、原材料、飼料、工業用素材など、幅広い用途で取引される重要な部に位置づけられています。
第2部は、第1部の動物性生産品と対をなす存在であり、「生きている動物・動物由来製品」に対して、「植物由来で加工度の低い製品」が集中的に配置されています。輸出入実務では、関税率だけでなく、植物検疫や原産地規則との関係も深く、正確な理解が不可欠です。
第2部に含まれる類の全体像
第2部は、第6類から第14類まで、合計9つの類で構成されています。それぞれが植物の状態や用途ごとに細かく区分されています。
第6類|生きている植物及び花卉
分類の考え方
第6類は「生きている状態の植物」を対象とする類です。食用ではなく、栽培用・観賞用・装飾用である点が最大の特徴です。苗木、球根、切り花など、植物としての生命機能を前提に分類されます。
実務上の注意点
食用目的であっても、生きている状態の植物は第6類に該当します。植物検疫の対象となることが多く、証明書不備による通関保留が頻発しやすい類です。
第7類|食用の野菜、根及び塊茎
分類の考え方
第7類は、食用目的の野菜類を対象とし、生鮮・冷蔵・冷凍・乾燥など物理的処理にとどまるものが含まれます。加熱や調味が行われていないことが前提です。
実務上の注意点
「下処理」の程度が分類判断の分かれ目になります。洗浄・皮むきは第7類に含まれますが、加熱や味付けを行うと第4部へ移行する可能性があります。
第8類|食用の果実及びナット類
分類の考え方
果実およびナット類を対象とし、生鮮品だけでなく乾燥果実や殻付きナットも含まれます。保存目的の乾燥は加工とはみなされません。
実務上の注意点
砂糖漬けやアルコール漬けなどの加工が行われると第20類など別部に該当します。輸送時の防腐処理の有無も分類確認が必要です。
第9類|コーヒー、茶、マテ及び香辛料
分類の考え方
嗜好品・調味料として利用される植物性製品をまとめた類です。焙煎の有無や粉砕状態によって細かく分類されます。
実務上の注意点
香辛料の混合物は単品か混合かで分類が変わります。また、抽出液やエキスは第13類に移るため、形状の確認が重要です。
第10類|穀物
分類の考え方
穀物そのものを対象とする類で、脱穀や精米の有無によって細分されます。粉砕されていないことが第10類の条件です。
実務上の注意点
精米は第10類に含まれますが、粉にすると第11類へ移行します。用途(食用・飼料用)による分類差はありません。
第11類|穀粉、でん粉、麦芽
分類の考え方
第11類は穀物を一次加工した製品を扱います。製粉、粗砕、でん粉抽出などが行われた時点で第10類から移行します。
実務上の注意点
混合粉や調製済み粉は第19類など別類となる可能性があります。原材料割合の確認が重要です。
第12類|油糧種子、薬用植物等
分類の考え方
油を採取する種子や、薬用・香料用・飼料用の植物を含む非常に幅広い類です。食用でない植物も多く含まれます。
実務上の注意点
播種用か加工用かでコードが分かれます。また、搾油済みの残渣は別類に分類されるため注意が必要です。
第13類|植物性の液汁及びエキス
分類の考え方
植物から採取された液汁や抽出物を対象とします。形状が液体・ペースト状である点が特徴です。
実務上の注意点
医薬用途か食品用途かで他部へ移る場合があります。成分表の確認が分類判断の鍵となります。
第14類|植物性編物材料等
分類の考え方
第14類は、他の類に該当しない植物性材料をまとめた補完的な類です。主に工業用・装飾用素材が対象です。
実務上の注意点
完成品や加工品になると、第44類(木製品)や第46類(編物製品)へ移行します。用途と加工度の確認が不可欠です。
第2部(植物性生産品)第6類〜第14類|HSコード詳細一覧表
| 類 | コード例 | 分類されるものの例 |
|---|---|---|
| 第6類 | 06.01 | 球根、塊茎、根茎等(生育用) |
| 06.0101 | チューリップ、ユリ等の球根 | |
| 06.02 | その他の生きている植物 | |
| 06.0201 | 果樹、低木、苗木 | |
| 06.03 | 切り花及び花蕾 | |
| 06.0301 | バラ、カーネーション | |
| 06.04 | 葉、枝、苔等(装飾用) | |
| 第7類 | 07.01 | じゃがいも(生鮮・冷蔵) |
| 07.0101 | 種用じゃがいも | |
| 07.02 | トマト | |
| 07.03 | 玉ねぎ、シャロット | |
| 07.0301 | 玉ねぎ(生鮮) | |
| 07.04 | キャベツ、ブロッコリー | |
| 07.06 | にんじん、かぶ | |
| 07.09 | その他の野菜 | |
| 第8類 | 08.01 | ココナッツ、ブラジルナッツ |
| 08.0101 | ココナッツ(乾燥) | |
| 08.02 | ナット類 | |
| 08.0201 | アーモンド | |
| 08.03 | バナナ | |
| 08.04 | デーツ、いちじく | |
| 08.05 | 柑橘類 | |
| 08.0501 | オレンジ | |
| 08.08 | りんご、梨 | |
| 第9類 | 09.01 | コーヒー |
| 09.0101 | 焙煎していないコーヒー豆 | |
| 09.02 | 茶 | |
| 09.0201 | 緑茶 | |
| 09.03 | マテ | |
| 09.04 | 胡椒 | |
| 09.06 | シナモン | |
| 09.10 | 香辛料の混合物 | |
| 第10類 | 10.01 | 小麦及びメスリン |
| 10.0101 | 硬質小麦 | |
| 10.02 | ライ麦 | |
| 10.03 | 大麦 | |
| 10.04 | オート麦 | |
| 10.05 | とうもろこし | |
| 10.06 | 米 | |
| 10.0601 | もみ米 | |
| 10.0604 | 精米 | |
| 第11類 | 11.01 | 小麦粉 |
| 11.0101 | 小麦粉(食用) | |
| 11.02 | その他の穀粉 | |
| 11.03 | 穀物の粗粒・ミール | |
| 11.05 | でん粉 | |
| 11.0501 | ばれいしょでん粉 | |
| 11.07 | 麦芽 | |
| 第12類 | 12.01 | 大豆 |
| 12.0101 | 種用大豆 | |
| 12.02 | 落花生 | |
| 12.04 | 亜麻仁 | |
| 12.07 | その他の油糧種子 | |
| 12.09 | 播種用種子 | |
| 12.11 | 薬用植物、香料用植物 | |
| 第13類 | 13.01 | 天然ガム、樹脂 |
| 13.0101 | アラビアガム | |
| 13.02 | 植物性の液汁及びエキス | |
| 13.0201 | 甘草エキス | |
| 13.02 | ペクチン、寒天 | |
| 第14類 | 14.01 | 竹 |
| 14.0101 | 編物用竹 | |
| 14.02 | 籐 | |
| 14.03 | わら | |
| 14.04 | その他の植物性材料 |
第2部における分類の考え方
第2部の分類で最も重要な視点は「植物由来であること」と「加工度が低いこと」です。基本的には、生の状態、または物理的処理にとどまる製品が該当します。
加熱、味付け、調味、保存のための加工が行われると、第4部(調製食料品)など別の部に移行する可能性があります。そのため、同じ野菜や果物であっても、状態や加工内容によってHSコードが大きく変わる点が実務上の注意点です。
また、食用か非食用かという観点も重要です。例えば、第6類の生きている植物は観賞・栽培用途が前提であり、食用野菜とは明確に区別されます。
実務上の注意点とよくある誤解
第2部に該当する製品では、植物検疫証明書の提出が求められるケースが多く見られます。特に生鮮品や種子、苗木などは、病害虫の侵入防止の観点から厳格な検査対象となります。
また、原産地規則の影響を強く受ける部でもあります。同じ農産物でも、生産国や加工国によって関税率が異なる場合があり、FTAやEPAの適用可否判断が重要になります。
誤分類の多い例としては、「軽度の加工をしているが未加工だと思い込むケース」や、「食用と非食用の区別を誤るケース」が挙げられます。これらは通関遅延や追徴課税の原因となるため、慎重な確認が必要です。
まとめ

HSコード第2部は、植物性生産品という広範な分野をカバーし、農産物貿易の基盤を形成する重要な部です。第6類から第14類までの構成を正しく理解することで、分類ミスを防ぎ、スムーズな輸出入手続きにつなげることができます。
とくに、加工度、用途、食用・非食用の違いを意識することが、第2部を理解するうえでの大きなポイントです。今後、各類を個別に掘り下げていくことで、より実務に即したHSコード運用が可能になるでしょう。
参考外部リンク(第2部:植物性生産品)
日本の公的機関・一次情報
・財務省 税関 Japan Customs
HSコード検索、品目分類事例、関税率確認に必須
https://www.customs.go.jp/tariff/
・税関HSコード解説(実行関税率表)
各類・各号の正式和文表記を確認できる
https://www.customs.go.jp/tariff/2025_4/index.htm
・農林水産省 植物防疫所
植物性生産品に関する輸出入検疫の公式情報
https://www.maff.go.jp/pps/
国際機関・グローバル基準
・World Customs Organization(WCO)
HSコードを管理する国際機関。体系理解に有用
https://www.wcoomd.org/
・WCO HS Explanatory Notes(概要ページ)
HS各部・各類の分類考え方の公式解説
https://www.wcoomd.org/en/topics/nomenclature/instrument-and-tools/hs-nomenclature-2022-edition.aspx
補助的に使える実務・調査向けサイト
・Trade Map(ITC)
農産物・植物性生産品の国別貿易統計分析
https://www.trademap.org/
・FAO(国連食糧農業機関)
穀物・農産物の国際需給や分類理解に役立つ
https://www.fao.org/home/en