「税関で止まりました」。通関業者からこの連絡を受けた瞬間、担当者の頭に浮かぶのは、保管料やデマレージ、納期遅延、そして取引先からの信用低下ではないでしょうか。実際、税関での審査停止は珍しいことではありません。しかし、その多くは偶発的なものではなく、事前に回避できたケースです。ここでは、税関で止まる典型的な3つのパターンを、実例ベースで解説し、具体的な対策まで落とし込みます。通関トラブルを未然に防ぐための実務的視点で整理します。
税関で止まる典型的な3パターン
パターン1:HSコードの誤分類
最も多いのがHSコードの誤分類です。HSコードは関税率や他法令該当性の判断基準となるため、税関は非常に厳格に審査します。申告コードと実際の商品内容が一致しない場合、貨物は審査停止となります。
実例として、電子制御基板を「部品」として申告したケースがあります。しかし税関審査で、基板単体で機能が完結していると判断され、「完成品」に再分類されました。その結果、関税率が上昇し、追加納税と再申告対応が必要になりました。仕様書の提出を求められ、通関は3日間停止しました。
また、繊維製品で素材割合の申告ミスが発覚した事例もあります。ポリエステル80%と申告していた製品が、検査の結果、綿混紡比率が高いことが判明し、分類変更となりました。EPA適用も否認され、追徴課税が発生しました。
税関が注視するのは「客観的資料」です。カタログ、技術仕様書、成分分析表などが即時提出できない企業は、審査が長引く傾向があります。
対策として有効なのは、事前教示制度の活用です。分類に迷う場合は、輸入前に税関へ照会することでリスクを大幅に下げられます。また、HSコードの根拠資料を社内保存し、担当者変更時も引き継げる体制を整えておくことが重要です。
パターン2:価格申告の不備(課税価格の疑義)
次に多いのが価格申告に関する疑義です。いわゆるアンダーバリューと疑われるケースや、加算要素の未申告が該当します。
ある企業では、海外関連会社から低価格で商品を輸入していました。市場価格より大幅に低かったため、税関は価格妥当性に疑問を持ち、契約書、送金記録、価格算定根拠の提出を求めました。結果として、ロイヤルティが加算漏れであったことが判明し、修正申告と追加納税が発生しました。
別の事例では、無償提供していた金型費用が課税価格に加算されていませんでした。関税法上、輸入品製造のために無償提供した金型費用は加算対象となります。これを把握していなかったため、後日修正申告となりました。
税関はインボイス価格だけでなく、取引関係や価格決定方法も確認します。特に関連会社間取引では、移転価格税制との整合も見られます。
対策としては、課税価格の加算要素チェックリストを作成することが有効です。ロイヤルティ、設計費、金型費、輸入者負担の費用などを事前確認する仕組みを整えます。また、価格構成説明書を事前に準備できる企業は、審査が短時間で終わる傾向があります。
パターン3:他法令該当の見落とし
HSコードや価格が正しくても、他法令該当で止まるケースがあります。食品、医療機器、化粧品、電気製品、植物関連商品などは、関税法以外の法令が関与します。
例えば、海外から輸入したサプリメントを「健康食品」として申告した事例では、成分の一部が医薬品成分に該当する可能性があり、厚生労働省確認が必要となりました。結果として審査に1週間を要しました。
また、バッテリー内蔵製品が電気用品安全法の対象と判断され、PSE表示確認が求められた事例もあります。木製梱包材に関しても、植物検疫証明が不足し、コンテナ開封検査となったケースがあります。
税関はHSコードだけではなく「用途」や「構造」も確認します。用途説明が曖昧な場合、追加資料の提出を求められます。
対策としては、輸入前の他法令該当性チェックが不可欠です。各省庁の公開情報を確認し、疑義がある場合は事前照会を行います。通関業者任せにせず、輸入者自身が理解しておくことが重要です。
なぜ止まる企業と止まらない企業に差が出るのか
税関で頻繁に止まる企業には共通点があります。それは、事前準備が不足していることです。仕様書がすぐ出てこない、価格算定根拠が説明できない、他法令該当を確認していないといった状態では、審査が長引きます。
一方、止まらない企業は、通関を「作業」ではなく「リスク管理」と捉えています。HS分類の根拠を保存し、価格加算要素を定期確認し、輸入前チェックフローを整備しています。その差が、通関速度に表れます。
税関で止めないための実務チェックリスト
以下の項目を輸入前に確認することで、停止リスクは大きく低減します。
- HSコードの根拠資料を保有しているか
- 製品仕様書や成分表を即提出できるか
- 課税価格の加算要素を整理しているか
- 関連会社間取引の価格妥当性を説明できるか
- 他法令該当性を事前確認したか
- EPA適用条件を満たしているか
- 原産地証明と申告内容が一致しているか
通関は書類審査が中心です。裏付け資料の有無が、停止の有無を左右します。
まとめ

税関で止まる典型的な3パターンは、HSコード誤分類、価格申告の不備、他法令該当の見落としです。いずれも、事前準備と社内体制の整備で回避可能なケースが大半です。通関は偶然の問題ではなく、管理の問題です。輸入前チェック体制を構築し、根拠資料を整理しておくことが、安定した物流と企業信用の維持につながります。通関をコストではなく、リスク管理の一環として捉えることが重要です。
参考外部リンク
- 税関(財務省)公式サイト
通関手続、関税率表、事前教示制度などの公式情報を確認できます。 - 事前教示制度について|税関
HSコードの分類や関税率について事前に照会できる制度の解説ページです。 - 輸入食品監視業務|厚生労働省
食品・サプリメントなどの輸入時に必要な手続きや届出情報を確認できます。 - 安全保障貿易管理|経済産業省
外為法該当性や規制対象品目の確認に役立つ公式情報です。 - 日本関税協会
関税率表や貿易実務に関する参考資料を確認できます。