1)中国不動産市場は今どの段階にあるのか
2024〜2025年時点の中国不動産市場は、急落局面を脱しつつあるものの、本格回復には至っていない過渡期にあります。政府による金融緩和や保交楼政策が奏功し、未完成物件の増加に歯止めがかかりつつあります。しかし、住宅販売の回復は弱く、都市ごとに明確な二極化が生じています。一線都市では購入需要が下支えされているものの、地方都市では在庫過多と人口流出が続き、販売環境は引き続き厳しい状況です。
市場全体を見れば、急激な下落は回避できているものの、価格や販売量が底を打ったと断言できる状況にはありません。特に消費者心理が改善していない点は、市場回復の最大の不確実性となっています。価格がさらに下落するのではないかという不安が残る中、住宅購入を先送りする動きが続き、回復のテンポを押し下げています。
2)短期シナリオ(1年以内):政策主導の安定化と残るリスク
(1)政策主導で安定化するシナリオ
短期的には、政策主導の安定化が進む可能性があります。住宅ローン金利の引き下げや購入制限の緩和など、需要喚起策が継続されており、一部都市では購入者数が緩やかに回復しています。また、保交楼政策の進展により、引き渡しへの不安が和らぎ始めていることも、販売の底支え要因になります。
さらに、信用力の高い国有デベロッパーが民間企業の案件を吸収する動きが進み、破綻リスクの広がりを抑える効果も期待できます。国有企業中心の再編が進めば、市場の安定感は一定程度高まると見られます。
(2)短期リスクシナリオ
一方で、短期的なリスクも依然として大きいです。デベロッパーの財務状況は全体として厳しく、追加デフォルトが発生する可能性があります。また、地方政府の財政悪化が進むと、公共投資が縮小し、地域経済の活動が弱まる結果、住宅需要がさらに圧迫されることも懸念されます。
加えて、住宅販売が回復しない状況が続けば、銀行の貸出姿勢がさらに慎重になり、不動産企業への資金供給が細る可能性があります。未完成物件問題が局地的に再燃するリスクもあり、市場心理を再び冷却させる要因となり得ます。
3)中期シナリオ(2025〜2027年):構造調整の長期化と成長モデルの転換
(1)構造調整が長期化するシナリオ
中期的には、中国不動産市場が長期調整期へと移行する可能性が高いと見られます。人口減少や都市化の鈍化が進むなか、住宅需要はピークアウトしつつあります。これにより、販売回復のテンポは緩やかになり、不動産企業の再建には相当な時間が必要になると考えられます。
さらに、業界は国有企業と民間企業の二極化が進むことが予想され、民間デベロッパーの新規投資は抑制される傾向が続くと見られます。この結果、地方都市では在庫整理が長期化し、土地財政の弱体化が地域経済全体に影響する可能性が高まります。
(2)成長モデルの転換シナリオ
もう一つの中期シナリオとして、不動産中心の成長モデルから製造業・テクノロジー・サービス経済へと重点を移す構造転換が挙げられます。中国は国家戦略として先端製造業やデジタル産業を強化しており、不動産依存からの脱却を進めています。
ただし、このシナリオでは短期的な産業再編や雇用調整が避けられず、経済成長のボラティリティは高まる可能性があります。不動産市場の縮小を別の産業の成長がどの程度補えるかが、今後の中期的な成長パスを左右する重要な要素となります。
| 項目 | 政策主導の安定化シナリオ | 構造調整の長期化シナリオ |
|---|---|---|
| 想定期間 | 〜2025年頃(短期) | 2025〜2027年以降(中期〜長期) |
| 市場の姿 | 急落は回避し、販売と価格は徐々に下げ止まり | 低成長と販売停滞が続き、不動産は長期調整産業に |
| 主な原動力 | 政府の金融緩和、保交楼進展、国有デベロッパー主導の再編 | 人口減少、都市化鈍化、家計心理の弱さ、地方財政の制約 |
| 住宅価格の傾向 | 一線都市は横ばい〜小幅調整、二線都市はまちまち、三・四線都市は弱含み | 一線都市でも上値が重く、二線以下では下落圧力と在庫調整が長期化 |
| 金融・財政への影響 | 不良債権リスクは管理可能な範囲で抑制、地方財政も段階的に調整 | 地方債務やLGFV問題が重しとなり、金融・財政の余裕が削られる |
| 投資・産業構造 | 不動産関連投資は緩やかに縮小、他分野への段階的シフト | 不動産投資は長く抑制され、製造業・テック・サービスへのシフトが必須に |
| 投資家・事業者の着眼点 | 政策支援の強い都市・国有デベロッパー中心に選別 | 都市別の人口動態、産業構造、財政健全性を重視した長期目線の選別 |
4)住宅価格の方向性(2025年前後)
住宅価格の見通しは都市ごとに大きく異なります。一線都市では需要が比較的安定しており、価格は緩やかな下げ止まりから横ばいの推移が想定されます。消費者の所得水準や都市機能の集中度が高いため、下値が支えられやすい状況にあります。
二線都市では政策次第で販売状況が改善する可能性がある一方、個別都市によって差が広がりやすい傾向があります。インフラ整備や産業政策との連動が重要な要因となります。
三・四線都市では在庫過多と人口流出の影響が大きく、調整が長期化する可能性があります。住宅価格が大きく上昇する局面は考えにくく、在庫整理の進捗が市場安定の鍵となります。
また、中古住宅市場の存在感が高まることで、価格形成の主体が新築中心から幅広い市場参加者に移りつつあり、これが今後の価格動向に新たな影響を与える可能性があります。
中国不動産市場:2025年前後の主なシナリオ比較
5)金融・財政のボトルネック
不動産市場の行方を左右するもう一つの重要な要素が、金融と地方財政のボトルネックです。地方政府は土地財政への依存度が高く、土地売却収入の減少は政策実施能力に直接影響を与えます。財政余力が乏しい地域では、購入補助や公共住宅化の取り組みが限定され、市場調整が長期化する要因となります。
金融面では、不動産企業向け融資のリスク管理が金融機関の懸念材料となり、銀行の貸出態度は慎重な姿勢が続くと見られます。信託商品や理財商品に関連するリスクが整理されない限り、金融市場全体の安定化にも時間がかかります。
6)今後注目すべき主要指標
中国不動産市場の方向性を判断するためには、販売面積の回復ペースや、都市別の住宅在庫量、土地出讓金の動向を注視する必要があります。未完成物件の処理進捗や、地方債務の再編状況も市場心理に大きな影響を与えます。
また、人民元の動向や金融政策の方向性も重要です。成長率の鈍化が続くと人民元に下押し圧力がかかり、海外投資家の資金流出が進む可能性があります。こうした指標を総合的に見ることで、市場が安定化に向かうのか、調整が続くのかを判断しやすくなります。
7)総括:安定化の道筋は見えるが、構造調整は避けられない

中国不動産市場は、急激な危機拡大を防ぐ政策対応によって、短期的には安定に向かう可能性があります。しかし、人口動態の変化、民間デベロッパーの再建遅れ、地方財政の制約といった構造的課題が残されており、完全回復には時間がかかると考えられます。
2025〜2027年は不動産市場の調整期の中盤に位置し、市場回復は都市ごとに差が広がる段階に入ると見られます。市場の急回復を期待するより、政策主導の安定化と徐々に進む構造変化を冷静に見極める必要があります。
外部リンク:参考資料・関連レポート
本記事で取り上げた中国不動産市場の動向をより深く理解するために、信頼性の高い外部情報源をまとめています。統計データ、政策文書、国際機関の分析レポートなど、補足調査に活用できる資料です。
中国国家統計局(National Bureau of Statistics)
不動産販売面積、開発投資額、都市別在庫、土地出讓金などの主要統計を確認できます。
https://www.stats.gov.cn/
中国人民銀行(PBOC)金融安定レポート
銀行の信用リスク、シャドーバンキング、住宅ローンなど金融セクターの動向を把握できます。
http://www.pbc.gov.cn/
中国住房和城乡建设部(住建部)
保交楼、住宅政策、都市別の規制緩和情報が確認できます。
http://www.mohurd.gov.cn/
IMF(国際通貨基金) 中国経済レポート
中国不動産セクターのシステミックリスク分析、地方債務、人口動態を含むマクロ経済レビューが充実しています。
https://www.imf.org/
Moody’s / Fitch / S&P の格付けレポート
恒大・碧桂園・融創など主要デベロッパーの格付け動向、リスク評価、財務指標を参照できます。
(各社サイト内で “China Property” を検索)
易居研究院(E-House / CRIC)
販売データ、都市別需給バランス、在庫量推移など実務寄りの分析資料が豊富です。
https://www.cricchina.com/