1)中国不動産市場の拡大と成長モデルの成立
中国の不動産市場は、1990年代後半の住宅制度改革を起点に急速に成長しました。福利分房が廃止され、民間が住宅を購入する商業住宅制度へと移行したことで、都市部では住宅需要が大きく拡大しました。人口の都市流入も強まり、住宅市場は経済成長の重要な推進力となりました。
この成長を支えたのが、地方政府が土地使用権の売却を財政基盤とする土地財政の仕組みです。土地価格の上昇は地方政府の資金調達を容易にし、その資金がインフラ整備に再投資されることで、住宅需要がさらに押し上げられました。また、デベロッパーは高レバレッジを前提とした経営を行い、土地取得と建設を借入金で賄いながら事業規模を拡大しました。住宅価格が上昇し続ける限り成立しやすい構造であり、市場全体が拡大を前提に動いてきたことが特徴です。
2)先売りモデルの役割と内在する脆弱性
中国不動産市場のもうひとつの特徴が、建物完成前に購入者が代金を支払う先売りモデルです。この仕組みにより、デベロッパーは建設前から資金を確保でき、資金回転が非常に良くなり、短期間で多数のプロジェクトを展開できるようになりました。
しかし、副作用も大きく、本来一つのプロジェクトに使うべき資金が別の事業へ転用されるケースが広く見られました。この状況では、新規販売が減少すると資金が途切れ、工事遅延や建設中断につながりやすくなります。人口減少や婚姻件数の減少によって住宅需要が弱まり始めると、先売りモデルの強さが一気に弱点へと変化し、資金繰りの悪化を加速させる要因となりました。
先売りモデルにおける資金の流れ(例)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 資金源 | 家計(購入代金) |
| 資金用途 | 建設費 / 土地取得費 / 他プロジェクトへの転用 |
| リスク点 | 販売減速で資金流入が止まる |
| 結果 | 工事遅延・資金繰り悪化 |
3)シャドーバンキング依存と金融規制の影響
多くのデベロッパーは、銀行融資だけでなく、信託商品や理財商品といったシャドーバンキングを利用して資金を調達してきました。これらの商品は高利回りを提示し、多くの投資資金を吸収してきましたが、その裏には資金運用の不透明さや返済リスクが存在していました。
2017年以降、中国当局は金融リスク抑制に向けて規制を強化し、シャドーバンキングの拡大が抑えられました。その結果、多くの不動産企業で資金調達が急速に難しくなりました。さらに、負債比率に上限を設ける三条紅線政策が導入され、借換えが困難になったことで、資金繰りの悪化が信用不安へと直結しやすい環境が整いました。企業規模の拡大と資金調達が一体化したビジネスモデルが、規制強化により脆弱性を露呈した形です。
4)家計資産の不動産偏重と市場心理の変化
中国では家計資産の約7割が不動産に集中しているとされ、多くの家庭にとって住宅価格の維持は極めて重要なテーマです。こうした状況が、住宅価格は下がらないという期待を生み、投資や投機を促す要因となってきました。一線都市では価格上昇が続き、複数物件の取得が一般化するなど、市場の期待が価格をさらに押し上げる循環が生まれました。
一方、三・四線都市では供給過剰が進み、地域間の価格格差が大きく広がりました。この不均衡は、景気減速時に下落圧力が特定地域に集中しやすい問題を引き起こしました。また、住宅価格下落の期待が強まる局面では、購入を控える傾向が生まれ、販売減速がさらに悪化する心理的悪循環が発生しやすくなります。
5)構造的問題が積み重なった結果としての信用不安
以上のような構造的要因が長年蓄積した結果、中国の不動産市場では信用不安が発生しやすい環境が整っていました。高レバレッジ経営、先売りモデルの資金転用、販売減速による資金流入低下、そして金融規制強化による資金調達の制限が複合的に重なることで、企業の資金繰りは急速に悪化しやすくなりました。

特定の大手企業がデフォルトに陥ると、市場全体の警戒感が高まり、信用収縮が一段と進む構造が形成されていました。つまり、中国不動産市場の信用不安は、単なる景気低迷ではなく、長年積み重なってきた構造的な脆弱性が一斉に表面化した結果であると言えます。