原産地証明が取れない理由とは?RVC計算と通関実務の落とし穴を解説

原産地証明が取れない理由とは?RVC計算と通関実務の落とし穴を解説

中国からASEANへの生産移転やサプライチェーン再構築が進むなか、「原産地証明が取れない」という相談が増えています。RCEPやAJCEPなどの協定を活用すれば関税優遇が可能ですが、証明書が取得できなければ通常関税が適用されます。本記事では、日本向け輸入を前提に、原産地証明が取りにくくなる典型的なケースと、その実務対策を整理します。

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なぜ原産地証明は突然取れなくなるのか

原産地証明は「制度があるから自動的に使える」ものではありません。協定の条文を満たし、必要な証憑を揃え、実態と整合して初めて成立します。移転初期に起きやすいのは、工程設計・部材構成・証憑管理のいずれかが未整理のまま出荷してしまうケースです。その結果、優遇税率の適用ができない、あるいは事後検証で否認されるリスクが生じます。

原産地証明が崩れる構造マップ

原産地証明が取得できない 中国部材比率が高い RVC基準未達 工程が軽微 実質的変更不足 サプライヤー証明不足 原材料証明未整備 証憑管理不備 事後検証で否認 原産地証明は制度ではなく「設計と証拠管理」の問題

ケース① 中国部材比率が高すぎる

ASEANで最終組立を行っていても、中国部材の比率が高い場合、原産地規則を満たせないことがあります。特に付加価値基準(RVC)では、域内付加価値が一定割合に達しないと優遇が使えません。

  • 中国部材が主要構成部分を占めている
  • 付加価値計算の根拠資料が不足している
  • 累積制度を前提にしているが証明が揃わない

RCEPでは累積が可能ですが、累積を使うためには各部材の原産証明が必要です。サプライヤーから証明書を取得できなければ、累積は実務上機能しません。

RVC計算方法と原産地判定の基本用語

原産地証明が取れない原因の多くは、「RVC(付加価値基準)やCTC(関税分類変更基準)の理解不足」と「計算・証憑の準備不足」に集約されます。ここでは、RVC計算方法を中心に、実務で頻出する用語を整理します。協定ごとに細部は異なりますが、考え方の骨格は共通です。

RVC(付加価値基準)とは

RVCは、原産品として認められるために必要な「域内で生じた付加価値の割合」を示す基準です。日本の輸入実務では、計算の根拠となる原価資料・仕入証憑・BOMが揃っているかが重要になります。RVCは、品目別規則(PSR)で「RVC40以上」などの形で要求されることがあります。

RVCの代表的な計算式(Build-down / Build-up)

1) Build-down方式(控除方式)

概念:完成品価格から非原産材料(Non-originating materials)の価額を引いて、割合を算出します。

例式:RVC(%)=(完成品価格 − 非原産材料価額) ÷ 完成品価格 × 100

  • 完成品価格はFOBなど、協定で指定される基準価格を使うことが多いです。
  • 非原産材料価額は、非原産(域外)材料の仕入価格・輸入価格などを、協定の定義に沿って積み上げます。
2) Build-up方式(積上方式)

概念:原産材料や域内加工など、原産性のある要素を積み上げて割合を算出します。

例式:RVC(%)= 原産材料価額 ÷ 完成品価格 × 100

  • 積み上げ対象(原産材料、域内労務費、間接費など)は協定・PSRの定義に依存します。
  • 実務では、積上方式の方が証憑作成が難しくなるケースがあります。

RVC計算で詰まりやすいポイント

  • 完成品価格(FOB等)の定義が曖昧で、計算が組めない
  • 非原産材料の価額が把握できない(多階層サプライヤー、部材点数が多い)
  • BOMが最新でない(設計変更・代替部材が反映されていない)
  • 原価資料と購買実績が一致しない(監査で説明できない)
  • ロイヤルティ、金型費、設計費などの扱いを整理していない

CTC(関税分類変更基準)とは

CTCは「非原産材料が、所定の加工を経て関税分類(HSコードの桁)レベルで変更しているか」を見る基準です。例えばCTH(Heading変更)やCTSH(Subheading変更)など、どの桁での変更が必要かは品目別規則(PSR)で決まります。

  • 注意点:輸出国側のHSと日本側のHSがズレると、CTC判定そのものが崩れます。
  • 注意点:最終組立が軽微だと、分類変更が起きずCTCを満たせないことがあります。

デミニミス(De minimis)と累積(Cumulation)

デミニミスは、一定割合までの非原産材料の使用を許容する考え方です。累積は、協定参加国の原産材料・加工を合算して原産性を満たせる仕組みです。ただし、どちらも「使えるかどうか」よりも「証明できるかどうか」が実務上の分かれ目です。

  • 累積を使うなら、部材ごとの原産証明(サプライヤー証明、仕入証憑など)が必要になります。
  • デミニミスを期待する場合も、割合を示す原価資料が必要です。

品目別規則(PSR)を読むときのコツ

  • まず対象品目の日本側HS分類を確定し、そのHSに対応するPSRを確認する
  • PSRがRVC型かCTC型か、複合要件(RVC+CTCなど)かを見極める
  • 必要な証憑(BOM、原価、工程記録、サプライヤー証明)を、要件から逆算して準備する

実務での最短ルート:計算より先に「データの整合」を作る

RVC計算方法を覚えても、BOM・購買実績・原価資料・工程表がバラバラだと証明は成立しません。まずは、BOMを確定し、非原産材料の範囲を決め、完成品価格の定義を統一したうえで、RVCの試算を行うのが安全です。試算の時点で詰まる箇所が、そのまま証明取得のボトルネックになります。

ケース② 最終組立のみで実質的変更が弱い

加工工程が軽微である場合、税関は「実質的変更がない」と判断する可能性があります。ネジ止めや簡易梱包のみでは、原産性が認められないことがあります。

  • 工程表が曖昧で説明できない
  • 加工前後の製品差異が小さい
  • 工程記録が保存されていない

原産地証明は工程の質と量で決まります。工程を設計段階から原産地規則に合わせる視点が重要です。

ケース③ サプライヤーが証明書を出せない

実務上もっとも多いのがこのケースです。中小サプライヤーが原材料証明を整備しておらず、原産証明書の発給に必要な資料を提出できない状況です。

  • 原材料証明の発行体制がない
  • 下請けが多層化している
  • 証憑フォーマットが統一されていない

この問題は制度ではなく運用の問題です。サプライヤー教育やフォーマット統一を行わなければ改善しません。

ケース④ BOMと実態が一致していない

設計変更や部材代替が発生しているにもかかわらず、BOMが更新されていないケースです。税関検証では、部材構成と申告内容の一致が厳しく確認されます。

  • BOMと購買実績が不一致
  • 原価計算書と部材構成の整合性不足
  • ロイヤルティや設計費の扱い漏れ

原産地証明は「紙の申告」ではなく、実態との一致が前提です。

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ケース⑤ 証憑保存体制が未構築

優遇税率を適用した後、日本税関が事後検証を行うことがあります。その際に証憑を提出できなければ否認される可能性があります。

  • BOM、工程表、原価資料の保管場所が不明確
  • 担当者退職により資料が散逸
  • 電子保存ルール未整備

証明は「取得すること」よりも「保存し続けること」が重要です。

原産地証明が取れない場合の影響

  • 通常関税適用によるコスト増加
  • 追徴課税や延滞税
  • 顧客との価格再交渉
  • 社内管理体制への信用低下

特に長期契約を前提とするビジネスでは、関税差が利益を圧迫します。

取れなくなる前にできる対策

  • BOMの確定と定期更新
  • 工程記録の標準化
  • サプライヤーへの証憑フォーマット提示
  • 協定選択の再検討
  • 事前教示制度の活用

セルフ診断チェックテーブル

確認項目自問
部材構成は確定しているかBOMは最新状態で、購買実績と一致しているか
原産地規則を理解しているかCTCかRVCか、どの基準で満たすか説明できるか
証憑は保存されているか事後検証に即提出できるか
サプライヤー体制は整っているか原材料証明を確実に回収できるか

まとめ

原産地証明は制度の問題ではなく、設計と管理の問題です。優遇税率は「使えるかどうか」ではなく「安定的に使い続けられるか」が重要になります。移転前に制度設計を行い、証憑管理体制を構築することで、関税リスクは大きく低減できます。通関設計はコスト削減策であると同時に、リスク管理そのものです。

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参考外部リンク

2026年2月18日 | 2026年2月15日