AJCEP(日ASEAN包括的経済連携)とは?RCEPとの違いと実務での使い分けを徹底解説

AJCEP(日ASEAN包括的経済連携)とは?RCEPとの違いと実務での使い分けを徹底解説

日本とASEAN諸国を結ぶ経済連携協定であるAJCEP(日ASEAN包括的経済連携協定)。RCEPが発効した現在でも、AJCEPは実務上の有力な選択肢です。協定は「新しい方が有利」とは限らず、品目・部材構成・証明難易度によって最適解は変わります。本記事ではAJCEPの基本構造、原産地規則RCEPとの違い、そして実務での使い分けまでを体系的に整理します。

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AJCEPとは何か

AJCEPは、日本とASEAN10か国との間で締結された経済連携協定です。物品貿易を中心とし、関税削減・撤廃を段階的に進める枠組みを定めています。発効は2008年以降、各国との間で順次適用されました。

特徴は、日本とASEAN間の二層構造です。日本対ASEAN各国という関係であり、中国や韓国などは含まれません。つまり、原産地規則の累積範囲もASEAN域内と日本に限定されます。

RCEPとの基本的な違い

1. 協定の範囲

  • AJCEP:日本+ASEAN10か国
  • RCEP:日本、中国、韓国、豪州、NZ、ASEAN10か国

RCEPはより広域な協定であり、中国部材を含むサプライチェーンでは累積の幅が広がります。一方、AJCEPは中国を含まないため、中国部材が多い製品では不利になる場合があります。

2. 累積の考え方

RCEPでは、参加国間での累積が可能です。たとえば、中国原産部材をASEANで加工した場合でも、条件次第で原産性を満たせます。

AJCEPでは、中国は累積対象外です。ASEAN域内+日本での加工のみが対象になります。つまり、中国部材依存型モデルではRCEPの方が適合しやすい傾向があります。

3. 原産地規則(PSR)の違い

品目別規則(PSR)は協定ごとに異なります。同じHSコードでも、AJCEPとRCEPでRVC比率やCTC要件が異なることがあります。

  • RVC基準の割合差
  • CTH/CTSHなど分類変更の要求水準
  • 複合要件(RVC+CTC)の有無

実務では、対象品目ごとに両協定を並列比較することが不可欠です。

4. 税率スケジュールの違い

RCEPは比較的新しい協定のため、段階的撤廃スケジュールが設定されている品目があります。一方、AJCEPは長年運用されてきたため、既に関税撤廃済みの品目も存在します。

税率だけを見るとRCEPが有利に見える場合でも、撤廃時期や例外品目を確認するとAJCEPが安定的なケースもあります。

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AJCEPの原産地規則を実務視点で理解する

RVC(付加価値基準)

AJCEPでもRVC基準が採用される品目があります。計算方法は協定条文に基づきますが、基本的な考え方は「域内付加価値の割合」です。

実務上重要なのは、完成品価格の定義と非原産材料の把握です。BOM、原価計算書、仕入証憑が揃っていなければ、RVC計算は成立しません。

CTC(関税分類変更基準)

非原産材料が加工によって所定桁で分類変更しているかを確認します。HS分類の確定が前提であり、日本側税関基準で説明できることが重要です。

証明手続き

AJCEPでは、原産地証明書の発給手続きが各国ごとに整備されています。RCEPと異なり、自己証明制度の適用範囲が異なる場合があるため、現地の制度確認が必要です。

AJCEPが向いているケース

  • ASEAN域内調達が中心で、中国部材依存が低い
  • 既にASEAN内で完結したサプライチェーンが構築されている
  • RCEPより税率が有利な品目
  • 長期運用で安定した証明体制がある

RCEPが向いているケース

  • 中国部材を一定割合使用している
  • 広域累積を活用したい
  • 中国・韓国との分業体制を組んでいる
  • 新規移転で柔軟な制度設計が可能

AJCEPとRCEPの比較テーブル

比較項目AJCEPRCEP
協定範囲日本+ASEAN日本+ASEAN+中国ほか
累積範囲ASEAN域内広域累積(中国含む)
税率安定性既存撤廃品目あり段階的撤廃品目あり
中国部材との相性低い高い
証明難易度既存運用で安定新制度で要確認
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具体的品目で見るAJCEPとRCEPの比較事例

協定比較は抽象論では判断できません。実務では「自社品目」での検証が不可欠です。ここでは代表例として、電子部品とアパレル製品を例に、AJCEPとRCEPの使い分けを整理します。

事例① 電子部品(プリント基板・電子ユニット)

想定ケース:ベトナムで組立、中国から主要ICチップを輸入。

部材構成の特徴
  • 主要半導体は中国原産
  • 基板加工はベトナム
  • 最終組立・検査はベトナム
AJCEPの場合

AJCEPでは中国は累積対象外です。そのため、中国原産ICは非原産材料として扱われます。RVC基準を満たすには、域内付加価値を高める必要がありますが、高額部材が中国原産である場合、RVC未達となる可能性があります。

RCEPの場合

RCEPでは中国が累積対象国です。条件を満たせば、中国原産ICを累積に組み込める可能性があります。結果として、RCEPの方が原産性を満たしやすいケースが多くなります。

実務判断

中国部材依存型の電子部品は、RCEP優位になる傾向があります。ただし、累積利用には中国側の証明書取得が前提となるため、証憑回収体制の整備が不可欠です。

事例② アパレル製品(衣類)

想定ケース:タイで縫製、生地はASEAN域内調達。

部材構成の特徴
  • 生地はASEAN域内原産
  • 縫製加工はタイ
  • 中国部材の使用は限定的
AJCEPの場合

ASEAN域内調達が中心であれば、AJCEPの累積範囲内で原産性を満たしやすくなります。既に関税撤廃済みの品目であれば、税率面でも安定的です。

RCEPの場合

RCEPでも原産性は満たせますが、必ずしもAJCEPより有利とは限りません。税率差がない場合、長年運用されているAJCEPの方が証明実務が安定しているケースもあります。

実務判断

ASEAN域内で完結するアパレル製品では、AJCEPが安定選択肢となる場合があります。証憑整備が確立している拠点では、協定の歴史的運用実績も判断材料になります。

比較まとめ

品目例AJCEP適性RCEP適性
電子部品(中国部材多)やや不利有利になりやすい
アパレル(ASEAN完結型)安定的同等またはやや有利

重要なのは、協定そのものの優劣ではなく「自社の部材構成との相性」です。電子部品のように中国依存が高い製品ではRCEP、ASEAN内完結型製品ではAJCEPが安定する傾向があります。ただし、最終判断は品目別規則(PSR)と実際の税率を並列比較した上で行う必要があります。

実務での協定選択の進め方

  1. 対象品目のHS分類を日本側基準で確定
  2. AJCEPとRCEPのPSRを確認
  3. 税率と撤廃スケジュールを比較
  4. 部材構成を整理し、RVC・CTCの適合性を試算
  5. 証明取得と保存体制を評価

協定は税率だけでなく、証明の安定性まで含めて選ぶ必要があります。

RVCの数値サンプル(38%で未達 → 45%で達成する例)

RVC(付加価値基準)は、原産性を満たすために「域内で生じた付加価値の割合」が一定以上であることを求める基準です。ここでは分かりやすく、Build-down(控除方式)で試算します。例として、RVC40%以上が必要なケースを想定します。

前提(モデルケース)

  • 完成品価格(FOB想定):1,000
  • 非原産材料価額(域外部材の合計):620
  • 求められる基準:RVC 40%以上

1) 未達の例:RVC 38%

Build-down方式(控除方式)の考え方:完成品価格から非原産材料を差し引いて割合を算出します。

計算式:RVC(%)=(完成品価格 − 非原産材料価額) ÷ 完成品価格 × 100

  • (1,000 − 620) ÷ 1,000 × 100 = 38%

この場合、RVC40%に届かず、原産地証明が取れない(優遇税率を使えない)可能性があります。実務では、ここで「何を変えるとRVCが上がるか」を検討します。

2) 達成の例:RVC 45%

RVCを上げる方法は大きく2つです。

  • 非原産材料価額を下げる(域外部材を域内調達へ切替、非原産部材の単価低減)
  • 完成品価格(FOB)に含める域内コストの整合を取り、価格定義を統一する(協定の定義に沿うことが前提)

ここではシンプルに、非原産材料価額を見直して改善する例を示します。

  • 改善後の非原産材料価額:550(例:域外部材の一部をASEAN域内調達へ切替)

再計算:

  • (1,000 − 550) ÷ 1,000 × 100 = 45%

この場合、RVC40%を上回り、原産性を満たせる可能性が高まります。

実務でのポイント(計算より先に整えるべきもの)

  • 完成品価格(FOB等)の定義を社内で統一し、インボイス・会計データと整合させる

よくある誤解

  • RCEPがあるからAJCEPは不要という誤解
  • 新しい協定の方が必ず有利という思い込み
  • 累積が自動的に適用されると誤解するケース

まとめ

AJCEPはRCEPに置き換えられた協定ではありません。品目や部材構成、証明難易度によってはAJCEPの方が安定するケースもあります。協定選択は制度理解だけでなく、通関設計と証憑管理の設計が重要です。優遇税率を安定的に活用するためには、AJCEPとRCEPを並列比較し、自社に合った協定を選択することが不可欠です。

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参考外部リンク

2026年2月19日 | 2026年2月15日