毎年12月下旬から1月上旬にかけて、国内外の送金や決済は通常の時期よりも遅れやすくなります。銀行の休業日が増えるだけでなく、国際送金の場合は複数のタイムゾーン・祝日・中継銀行が絡むため、わずかな遅れが数日の遅延につながることもあります。
とくに貿易取引や国際商取引、個人の海外送金を行う企業・個人にとっては、年末の送金遅延は避けにくいリスクです。この記事では、年末に送金・決済が遅れる具体的な理由と、実務上の対策を詳しく解説します。
1 年末に銀行送金が遅延する仕組み|カットオフ時間の前倒しと処理集中
年末の最も典型的な遅延要因が、銀行のカットオフ時間の前倒しです。
国内外の銀行は最終営業日に決算処理や法人決済が集中するため、送金依頼が通常より早く締め切られることがあります。その結果、午後に送金を依頼しても翌営業日扱いになってしまい、実際に着金するのが数日後となるケースが増えます。
国際送金では、送金銀行・中継銀行・受取銀行のカットオフが国ごとに異なるため、年末はとくに連動しにくく、各銀行で1日ずつ遅延することもあります。また、年末であっても国内送金が即時反映されるケースは多いものの、法人口座は内部承認が重なるため、結果的に振込処理が翌日扱いになることがあります。
2 国別祝日と週末の組み合わせによる遅延|クリスマス・年末年始・各国独自の休日
国際送金が遅れる大きな理由のひとつが、各国の祝日の組み合わせです。とくに12月は欧米・アジア・中東で主要な祝日が重なり、実質的に送金が動かなくなる期間が発生します。
具体例を挙げると次のとおりです。
・欧州はクリスマス休暇(12月24〜26日)が連続
・米国は年末の処理混雑により銀行間決済が遅れやすい
・アジアでは年末に加え、国によって独自の祝日が重なる
・中東圏は週末が金曜・土曜の国もありスケジュールがさらに複雑化
このように、送金国側は営業しているのに、受取国側が休みというケースは年末に頻発します。実際には中継銀行もそれぞれ別の祝日に従うため、送金が止まるタイミングが複数存在し、着金までの日数が読みにくくなります。
3 SWIFTネットワーク混雑と中継銀行での遅延|AML審査の強化も影響
国際送金の多くはSWIFTネットワークを通じて行われますが、12月は取引量が急増します。
このため、メッセージ処理や中継銀行での承認に通常より時間がかかることがあります。
年末に遅れが発生しやすいパターンとしては次が挙げられます。
・USD決済でニューヨークの清算が混雑し処理速度が低下
・複数の中継銀行を経由する地域への送金(アフリカ、中東、南米など)
・AML(マネーロンダリング対策)の審査で一時保留されるケースが増加
・取引内容のチェックに追加照会が必要になり、担当者が不在で処理が止まる
AML保留は銀行内部の判断によるもので、問い合わせをしても「審査中」としか回答されないことが多く、年末は解決までに時間がかかる傾向があります。
4 暗号資産・オンライン送金サービスも遅延する理由|即時性が損なわれる背景
USDTやUSDCなどのステーブルコイン、海外送金アプリ、オンライン決済サービスを利用する場合でも、年末は意外と遅延します。これは、暗号資産そのものではなく、法定通貨と接続する部分が銀行休業の影響を受けるためです。
主な遅延要因は次のとおりです。
・取引所の出金処理が混雑して遅れる
・オンチェーン転送は早くても、フィアット換金が銀行の休業に左右される
・サポート対応が減り、KYC・出金確認が遅延する
・送金サービス側の内部審査が年末混雑で後回しになる
暗号資産は24時間稼働しているから大丈夫、という考え方は年末だけは通用しないため注意が必要です。
5 貿易決済で起きる年末特有の遅延|L/C書類・B/L発送・物流混雑の影響
貿易決済では、銀行の処理だけでなく、船積み書類や原本の輸送が関係します。
とくにL/C(信用状)決済では、必要書類が一つでも遅れれば決済がすべて翌年にずれ込むことがあります。
代表的な遅延ポイントは次のとおりです。
・国際宅配便が混雑しB/Lや原本書類の到着が遅れる
・銀行の書類審査が減員で遅くなる
・物流遅延により船積みスケジュールが変動しL/C条件に影響
・保険証券や原産地証明書の発行が遅れる
12月後半は世界中で物流が最も混み合う時期でもあり、書類遅延と銀行遅延が同時に起こるため、計画通りに進まないことが多くなります。
6 法人口座の社内承認が止まるケース|実務で最も多い内部要因
企業が海外送金を行う際、社内承認フローがネックになるケースは非常に多くあります。
年末は役員や経理担当者が休暇に入り、「承認者が不在のため送金依頼が提出できない」という事態が起きやすくなります。
また、法人用ネットバンクでは情報変更や新規受取口座の登録などに銀行側の承認が必要なこともあり、この処理が遅延することも少なくありません。
年末は問い合わせ窓口自体も混雑するため、対応待ちが長くなるのが一般的です。
7 年末の送金・決済遅延を回避する実務的対策|企業・個人が取るべき行動
年末に遅延リスクを下げるには、次の対策が現実的です。
・銀行の年末最終カットオフを必ず確認する
・重要な送金は12月中旬までに実行する
・国際送金は中継銀行が少ないルートを選ぶ
・AML保留に備え、取引内容や契約書を整理し説明可能な状態にする
・受取銀行側の休業日とタイムゾーンも事前共有する
・貿易書類は早期に作成し、原本発送は余裕を持って依頼する
・暗号資産利用時はフィアット換金の時間を逆算してスケジュールを組む
企業間の国際決済の場合、年末は通常時より5〜10営業日ほど余裕を持つことが現実的です。
まとめ|年末の送金遅延は複数要因が重なるため早めの準備が重要

年末の送金・決済遅延は、銀行休業日、祝日の重複、中継銀行の混雑、AMLチェック、物流や書類の遅延など、複数の要因が同時に起きることで発生します。
そのため、どれか一つだけに対策をしても防ぎ切れず、総合的な準備が必要になります。
とくに国際送金や貿易決済では、銀行・物流・社内承認などの複数工程が絡むため、早めのスケジュール調整が実務上もっとも効果的です。