【実務解説】IMFPAを受領したときのチェックポイントと注意事項・01

【実務解説】IMFPAを受領したときのチェックポイントと注意事項・01

国際取引における IMFPA(Irrevocable Master Fee Protection Agreement) は、仲介人やコンサルタントへの報酬を保護するための重要な文書です。しかし、その性質上、詐欺案件や不適切な取引に利用されるケースも少なくありません。

本記事では、IMFPAを受領した際に実務担当者が確認すべきポイントを体系的に整理します。

IMFPAを受領したときのチェックポイント

IMFPAの基本構造を理解する

まず、IMFPAが何を目的としているかを把握します。多くの場合、以下の3点を中心に構成されています。

セクション内容チェックの要点
当事者情報売主・買主・仲介者の名称、所在地、代表者実在性・法人登録の有無
手数料条項手数料率(例:総額の3%)と分配割合金額の妥当性、支払条件
法的効力条項準拠法・管轄・署名効力国際的に有効な形式か

受領直後に「形式上のIMFPA」か「実際の取引に基づく契約」かを切り分けることが重要です。

取引内容の妥当性を確認する

IMFPAは商材・数量・契約金額に依存して報酬額が算定されるため、契約書に記載された取引内容が現実的かどうかをチェックします。

  • 商材が現実に取引される商品か(例:原油、金属、砂糖など)
  • 取引数量や期間が不自然でないか
  • 「Contract Value」が曖昧なまま報酬だけ明示されていないか

「年間数十万トン」など過大な数字が提示されている場合、詐欺性が高いパターンである可能性があります。

当事者・会社情報の信頼性を検証する

  • 法人登記・商号の実在性(Company Registryで確認)
  • 所在地・代表者名の整合性
  • 銀行情報が実際の法人口座か(個人口座なら要注意)

よくある偽装例:

“UBS Zurich” と記載されていても、実際のSWIFTコードが存在しない、または別支店名義になっている。IMFPAに記載された銀行情報は、支払先の真正性を裏づける最重要項目です。疑わしい場合は「SWIFT/BIC検索」で照合しましょう。

手数料率・分配の合理性を確認する

一般的な国際仲介では、手数料は総額の 1〜3%前後 に設定されるケースが多くなりますが、極端に高い(5〜10%)場合は注意が必要です。また、複数の「Beneficiary」が記載されている場合は、分配合計が100%(または設定値3%)になるかを必ず検算します。

支払割合の小数点誤りや、合計3%を超える設定は、「コピー転用されたIMFPA」である可能性があります。

銀行確認条項(Bank Acknowledgment Clause)

銀行確認条項(Bank Confirmation / Bank Acknowledgment)は、契約の実効性を裏づける重要なセクションです。

チェックすべきポイント:

  • 「銀行がIMFPAを正式に認識・署名する」と記載があるか
  • 署名権限のある代表者名で締結されているか
  • 単なる“intention to pay”文言ではなく、“irrevocable instruction”形式か

「Our bank shall acknowledge the pay order…」という文面があれば信頼度は高めです。逆に「We intend to pay upon agreement」など曖昧な表現は注意が必要になります。

非回避条項(Non-Circumvention Clause)

この条項は、仲介者を排除して直接契約することを防ぐものです。実務上、以下の点を確認します。

  • 有効期間が明記されている(通常は3〜5年)
  • “directly or indirectly circumvent” など回避禁止の文言がある
  • 契約解除や修正には全当事者の書面同意が必要と明記されている

この条項がないIMFPAは、実質的に仲介者保護になっていません。

準拠法・管轄条項(Governing Law and Jurisdiction)

一般的に「イギリス法」「シンガポール法」「スイス法」などが多いですが、不自然に第三国のローカル法を指定している場合は要注意です。特に「中国法」「香港法」指定のIMFPAは、実際の執行が難しいケースが多いため、契約担当者は慎重に確認すべきです。

署名・証跡・電子版の扱い

  • 署名者が実際の役職者か(Director, CEOなど)
  • 署名・社印・日付が揃っているか
  • 「電子スキャン版は原本と同等」と記載されているか

スキャン版しか存在しないIMFPAでも、電子署名が整っていれば一定の法的効力を持ちます。ただし、署名欄に複数の筆跡がある場合は改ざんの可能性も考えられます。

詐欺・不正利用を疑うべきサイン

信頼できるIMFPAは、署名前に十分なKYC・DD(本人確認・デューデリジェンス)が行われています。

項目注意すべき兆候
契約金額異常に高額(例:数十億USD)
銀行情報個人口座や未確認のSWIFTコード
契約言語不自然な英語、文法エラーが多い
タイムライン即日署名・支払要求など急ぎの指示

まとめ:受領時チェックリスト

チェック項目備考
当事者・法人の実在性公式登記またはウェブ検索
銀行情報・SWIFTコード各受益者口座
手数料率・分配比率合計が1~3%程度
非回避条項期間・署名条件あり
準拠法・管轄英国法など
署名・印章各ページ署名あり

IMFPAは、取引成立後の手数料を保証する唯一の契約文書となる場合が多く、その信頼性を見極める力が実務担当者には求められます。形式を追うだけでなく、「誰が」「どの銀行経由で」「いつ支払うのか」を明確に把握することが、安全な国際取引への第一歩です。

早速、次の記事で実際にIMFPAを検証してみましょう。

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2025年9月22日 | 2025年10月20日