SWIFTメッセージは国際金融の取引において不可欠な通信手段であり、各番号ごとに役割が明確に定義されています。その中で MT792 は「Request for Cancellation(取消依頼)」とされ、すでに送信済みのメッセージを取り消したい場合に利用されます。
一方で、実務現場では「回答保留」や「処理中」を伝える目的で、MT792に準じた運用が行われることもあります。本稿では、正式定義と実務での補足的な活用例の両面から解説します。
SWIFT カテゴリ7 MT792の正式な定義:Request for Cancellation

主な用途
MT792は、SWIFTネットワークにおいて「誤送信や不要となったメッセージを取り消す」という非常に限定的かつ重要な役割を持ちます。特に国際送金や信用状取引では、一度送信したメッセージがそのまま取引の根拠になるため、誤りがあれば速やかに訂正を行う必要があります。そのための公式手段として、MT792は利用されます。
- 誤送信したメッセージの取消依頼
- 二重送信した際の1件削除依頼
- 新しい内容を送信する前に、旧メッセージの取消を相手銀行に通知
メッセージの流れ
- 発信銀行が誤送信や不要になったメッセージを認識
- MT792を送信し、取消を相手銀行に依頼
- 相手銀行が取消を承認すれば、メッセージが無効化される
このように、MT792は「エラー処理」や「修正のための公式手段」として位置づけられています。送信者が一方的に取消を宣言するのではなく、相手銀行の承認を必要とする点が大きな特徴です。これにより、国際金融取引における透明性と整合性が保たれ、双方の記録が一致することが保証されます。
SWIFT カテゴリ7 MT792のサンプル
{1:F01XXXXJPJTAXXX0000000000}{2:I792YYYYUS33XXXXN}{4:
:20: CXL20250930
:21: REF123456789
:11S: CRED
:79: WE HEREBY REQUEST CANCELLATION OF OUR
SWIFT MESSAGE SENT ON 25 SEPTEMBER 2025
UNDER REFERENCE LC123456789.
THE MESSAGE WAS DUPLICATED IN ERROR.
PLEASE CONFIRM CANCELLATION.
-}
サンプルの意味
- :20: 取消依頼の参照番号
- :21: 取消対象となる元メッセージの参照番号
- :11S: 取消依頼対象のメッセージ種別(例:CRED = Credit message)
- :79: 本文。取消理由や対象メッセージの内容を明記し、相手銀行に取消承認を依頼
番号 | 項目名 | 意味 | 記入例 |
---|---|---|---|
:20: | Sender’s Reference | 取消依頼メッセージの管理番号 | CXL20250930 |
:21: | Related Reference | 取消対象の元メッセージ参照番号 | REF123456789 |
:11S: | Message Type | 取消対象メッセージの種別コード | CRED(信用状関連メッセージ) |
:79: | Narrative | 本文(取消理由・対象・依頼内容を記載) | “Please cancel our previous message…” |
SWIFT カテゴリ7 MT792の実務上の保留通知的な運用
正式には「取消依頼」として定義されているMT792ですが、実務現場では次のように“保留通知”的(Pending Response Notification / 保留回答通知)な使われ方をする例も見られます。
- 承認待ちやコンプライアンス確認中
「すぐに回答できないが処理は進行中」と伝える用途 - 書類不備の再確認
書類を精査中で最終判断に時間がかかる場合の暫定通知 - 誤解防止
無回答=拒否と受け取られることを避けるための情報提供
これは厳密にはSWIFT規格に準拠した使い方ではなく、銀行間の合意や慣習に依存する面が強い点に注意が必要です。
SWIFT カテゴリ7 MT792のメリット・デメリット・留意点
メリット
MT792を適切に活用することで、金融取引の現場におけるリスク軽減や透明性の向上につながります。特に誤送信や二重送信といったトラブルが避けられない中で、迅速に修正できる点は大きな強みです。また、実務上の補足運用によって、信頼関係を維持する役割も担うことができます。
- (正式定義)誤送信や二重送信を速やかに修正できる
- (補足運用)相手銀行に安心感を与え、信頼関係を維持できる
このように、MT792には「公式にエラーを正す手段」と「柔軟に相手への配慮を示す手段」という二重の価値があります。ただし、後者はあくまで慣行的な側面に過ぎないため、過信せずバランスを取って活用することが大切です。
デメリット
一方で、MT792にはいくつかの制約やリスクも存在します。特に取消依頼は、送信した時点で自動的に成立するわけではなく、相手銀行の承認を必要とするため、必ずしも希望通りに進むとは限りません。
- (正式定義)相手銀行が取消を拒否する可能性がある
- (補足運用)本来の定義と乖離しているため、誤解や不整合のリスク
こうしたデメリットを理解したうえで利用することが重要です。誤解や遅延を避けるためには、事前に相手銀行とコミュニケーションを取り、双方の合意を前提に使うことが安全策となります。
留意点
MT792を使用する際には、形式的な要件や本来の役割を十分に意識する必要があります。特に、「取消依頼」が正式な定義であることを踏まえつつ、補足的な使い方は限定的にとどめることが求められます。
- MT792は「取消依頼」が本来の役割であることを理解する
- 保留通知的な利用は“補足的・非公式”であることを前提とする
- フォローアップの正式メッセージを必ず発信すること
結果として、MT792は強力なツールでありながら、誤った使い方をすれば信頼失墜や手続き不整合の原因となり得ます。したがって、規格と実務運用の両面を理解し、正確さと柔軟性のバランスを意識することが実務担当者にとっての鍵となります。
SWIFT カテゴリ7 MT792のまとめ

MT792は、SWIFTの規格上では「Request for Cancellation(取消依頼)」として明確に定義されており、誤送信や二重送信の修正を行う公式な手段です。これは相手銀行の承認を必要とするため、一方的な取消ではなく、相互に記録を整合させる仕組みを支える重要な役割を担っています。
一方で、実務の現場では「回答が保留中である」「承認手続き中である」といった状況を伝えるために、MT792を事実上“保留通知”のように扱うケースも見られます。これは正式な運用ではないものの、無回答による誤解や不信感を避けるための慣行的な工夫として根付いている側面があります。
したがって、実務担当者に求められるのは、この二面性を正しく理解し、規格に沿った正確な利用を基本としながらも、相手先との信頼関係を保つ補足的手段として柔軟に対応する姿勢です。こうしたバランス感覚こそが、国際取引の現場でトラブルを防ぎ、スムーズな金融コミュニケーションを実現する鍵となります。