SWIFT MT740・MT742:承認通知と払戻請求の仕組みと比較・解説

SWIFT MT740・MT742:承認通知と払戻請求の仕組みと比較・解説

貿易取引において、信用状(L/C)の裏側では「誰が支払いを承認し、誰が請求するか」を管理する複雑なプロセスがあります。その中で、SWIFTカテゴリ7に含まれるメッセージである MT740(承認通知)MT742(払戻請求) は、銀行間の資金決済の橋渡し役として重要な位置を占めています。
この記事では、それぞれの役割と流れを整理し、比較表や比喩を交えて解説します。

SWIFT MT740 承認通知、MT742 払戻請求の概要

MT740とは(承認通知 / Authorization to Reimburse)

MT740は、発行銀行が償還銀行へ「指定条件を満たした場合に、支払いを行ってよい」と通知するメッセージです。これは信用状の実行段階に入る前に「払い戻しの承認」を伝えるもので、受益者やネゴ銀行にとっては安心材料となります。

MT740は、例えると「保証書付きの買い物券」のようなものです。お店(償還銀行)は、発行元(発行銀行)が承認した以上、利用者(ネゴ銀行)から提示されれば安心して支払いができます。

MT742とは(払戻請求 / Reimbursement Claim)

MT742は、ネゴ銀行や確認銀行が償還銀行に対して「支払を実行してください」と請求するメッセージです。これはMT740の承認に基づき実際に資金を引き出す役割を担い、貿易決済の最終的な現金化を可能にします。

MT742は「商品券をお店で現金に換える」イメージです。承認済みの券(MT740)があるからこそ、お店(償還銀行)は安心してお金を支払います。

SWIFT MT740 承認通知、MT742 払戻請求の流れ

信用状取引における MT740(承認通知)MT742(払戻請求) のやり取りは、以下のような段階を踏みます。

A. 発行銀行 → 償還銀行へ「承認通知(MT740)」

  • 輸入者の依頼に基づき信用状(L/C)が発行される。
  • 発行銀行は、償還銀行に対して「この信用状に基づく支払いを承認する」とMT740を送信。
  • この時点ではまだお金は動かず、「条件を満たせば支払ってよい」という許可証 を出した段階。

B. 輸出者が書類を提示 → ネゴ銀行が処理

  • 輸出者(受益者)は、船積書類や必要な書類をネゴ銀行(あるいは確認銀行)へ提出。
  • ネゴ銀行は書類をチェックし、信用状条件を満たしていると判断すれば、輸出者に対して代金を立替払い(ネゴシエーション)。
  • 立替払い後、ネゴ銀行は償還銀行から資金を回収する権利を得る。

C. ネゴ銀行 → 償還銀行へ「払戻請求(MT742)」

  • ネゴ銀行は、発行銀行から送られてきた承認通知(MT740)を根拠に、償還銀行へ「支払をお願いします」とMT742を送信。
  • この請求には、金額・通貨・バリューデートなど具体的な精算情報が含まれる。

D. 償還銀行が支払い実行

  • 償還銀行は、MT740で承認されていることを確認し、MT742の請求内容に基づきネゴ銀行へ送金。
  • これにより、ネゴ銀行が立替払いした資金が回収される。

E. 償還銀行 → 発行銀行へ清算請求

  • 償還銀行は「自分が立て替えて支払った分を精算してほしい」と発行銀行へ請求。
  • 発行銀行は輸入者からの支払を資金源として、償還銀行へ清算を行う。

イメージ図(簡略フロー)

輸入者 → 発行銀行 → (MT740 承認通知) → 償還銀行
輸出者 → ネゴ銀行 → (MT742 払戻請求) → 償還銀行 → ネゴ銀行に支払
償還銀行 → 発行銀行に清算

こうして、MT740は「支払ってよい承認」MT742は「実際に支払ってくださいという請求」 という役割を持ち、両者が組み合わさることで信用状取引の決済が完結します。

SWIFT MT740 承認通知、MT742 払戻請求の比較表

ここまで個別に役割を見てきましたが、実務ではMT740とMT742は「承認」と「請求」というセットで登場します。両者を並べて比較することで、それぞれの立ち位置や使われるタイミングの違いが明確になります。特に新人実務者にとっては、この表を押さえることで全体像が一気に理解しやすくなります。

項目MT740MT742
メッセージ名Authorization to ReimburseReimbursement Claim
誰が送るか発行銀行 → 償還銀行ネゴ銀行/確認銀行 → 償還銀行
主な目的払い戻し承認の通知払い戻し請求
タイミング信用状の執行前書類が提示され、資金化の段階
比喩「商品券の承認書」「商品券を換金する請求」

この比較からわかるように、MT740とMT742は単独では完結せず、必ず相互に関連して機能します。
銀行実務においては「どの銀行がどの立場でメッセージを送っているのか」を意識することが重要です。理解のポイントは、MT740は前提条件の提示、MT742は実行要求 という位置づけにある、ということです。

SWIFT MT740 承認通知、MT742 払戻請求のメリット・デメリット・留意点

メリット

  • 資金の流れが明確化され、銀行間での混乱が減る
  • 受益銀行は安心してネゴシエーションできる
  • 発行銀行は条件付きで支払責任を限定できる

これらの利点により、信用状取引は単なる「約束」ではなく、国際的に通用するルールに基づく安全な仕組みとして機能します。輸出入双方にとっての信頼性向上こそが、MT740とMT742が存在する最大の価値です。

デメリット

  • 手続きが複雑で時間がかかる
  • 複数の銀行が関与するため、誤送信や確認ミスのリスクあり

デメリットはシステム面や事務処理の煩雑さに集約されます。実務者にとっては「確認を怠らないこと」や「タイムラインを意識すること」が、リスクを軽減する最も現実的な対策となります。

留意点

  • 払い戻し承認(MT740)があっても、実際の支払は請求(MT742)に基づく
  • 各銀行の締め時間やシステム運用に注意が必要
  • LC条項とメッセージ内容の整合性を確認すること

留意点は一見細かいルールに思えますが、実際には決済が成立するかどうかを左右する重要な要素です。「小さな齟齬が大きなトラブルにつながる」という意識を持ち、メッセージ内容を必ず信用状条項と照合する姿勢が求められます。

SWIFT MT740 承認通知、MT742 払戻請求のサンプルメッセージ

MT740(承認通知) のサンプルメッセージ

:27: SEQUENCE OF TOTAL 1/1
:20: TRANSACTION REFERENCE NUMBER XXXX
:25: ACCOUNT IDENTIFICATION XXXX
:40F: APPLICABLE RULES UCP600
:77C: DETAILS OF REIMBURSEMENT XXXX

MT742 (払戻請求)のサンプルメッセージ

:27: SEQUENCE OF TOTAL 1/1
:20: TRANSACTION REFERENCE NUMBER XXXX
:21: RELATED REFERENCE XXXX
:32A: VALUE DATE, CURRENCY, AMOUNT XXXX
:52A: ORDERING BANK XXXX
:57A: BENEFICIARY BANK XXXX

MT740・MT742で使用される主なフィールド番号と例

フィールド番号項目名意味・用途具体例
:27:Sequence of Totalメッセージの通し番号(分割送信のときに使用)1/1(全体で1通のうち1通目)
:20:Transaction Reference Number取引参照番号。銀行が一意に付与するID2025LC12345
:21:Related Reference関連する信用状や取引の参照番号LC2025-XYZ
:25:Account Identification関連する口座番号や口座識別情報123-4567890
:32A:Value Date, Currency, Amount支払日、通貨、金額250922USD100000,00
:40F:Applicable Rules適用される規則(例:UCP600)UCP600
:52A:Ordering Bank発行依頼銀行(SWIFTコード形式)HSBCHKHHXXX
:57A:Beneficiary Bank受益銀行(SWIFTコード形式)CITIUS33XXX
:77C:Details of Reimbursement払戻しに関する詳細指示“Reimburse against conforming documents via Bank XX”

ポイント

  • MT740 は「承認通知」なので、:77C(詳細指示)や:25(口座識別)といった 承認の条件やルール が中心。
  • MT742 は「払戻請求」なので、:32A(金額・通貨・バリューデート)や:57A(受益銀行)など 支払い実行に直結する情報 が必須。

SWIFT MT740 承認通知、MT742 払戻請求のまとめ

MT740とMT742は、信用状決済における「承認」と「請求」の両輪です。

どちらか片方だけでは成立せず、銀行間決済の安全性を確保するセットメッセージ と言えます。実務ではこの流れを理解しておくことで、資金化のタイミングや銀行との交渉をスムーズに進められるでしょう。

2025年8月22日 | 2025年10月30日