MT700は、カテゴリ7(MT 7xx)にリストされている、信用状(Letter of Credit)の発行時に利用されるSWIFTメッセージで、発行銀行が受益者やアドバイジング銀行に対して「信用状の条件」を通知するためのものです。MT700は信用状(Letter of Credit, LC)の根幹となるSWIFT電文であり、国際貿易取引で最も多用されるメッセージのひとつと言えます。貿易取引における決済保証の中心的役割を果たし、LC取引では最初に登場する重要な電文といえます。
この記事では、基本的な定義だけでなく、実務上の流れや注意点も含めて詳しく解説します。
SWIFT MT700:信用状(L/C)発行通知の役割
MT700(Issue of a Documentary Credit)は、信用状取引における起点となるメッセージであり、輸出者・輸入者双方にとって取引の枠組みを明確化する重要な役割を担います。単なる通知文ではなく、決済保証の裏付けや後続メッセージの基盤を形作るため、国際貿易の実務において欠かせない存在です。
その、MT700の役割は大きく以下のとおりになっています。
SWIFT MT700の役割
- 信用状の発行内容を正式に通知する
- 受益者(輸出者)に代金支払保証を与える
- L/C取引の開始点となり、その後の書類提出や決済条件を規定する
- 改訂(MT707)や照会(MT799)など、関連メッセージとの基盤を形成する
SWIFT MT700の流れ

SWIFT カテゴリ7 MT700:信用状(L/C)の主な記載内容
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 信用状番号・発行日 | L/Cを識別するための基本情報 |
| 有効期限・提示場所 | どこで・いつまでに書類を提示すべきかを明示 |
| 発行銀行 | 信用状を発行する銀行 |
| 通知銀行(Advising Bank) | 受益者に信用状を伝達する銀行 |
| 受益者(Beneficiary) | 支払いを受ける輸出者 |
| 信用状の種類 | 取消不能L/Cなど、保証の性格を定義 |
| 金額・通貨 | 支払いの総額と通貨単位 |
| 使用方法 | Sight(一覧払い)、Usance(手形支払)など |
| 商品・数量・価格 | 輸出入される貨物の詳細条件 |
| 船積条件 | FOB、CIFなどインコタームズに基づく条件 |
| 必要書類 | インボイス、船荷証券、保険証券などの提出義務 |
| 適用規則 | UCP600やISP98など、信用状取引を規律する規則 |
実務で使える MT700(信用状発行通知)フォーマットのサンプルを例に沿ったテンプレートを確認してみましょう。(実際のSWIFT電文は定型フィールド(40A, 31Cなど)が決まっています)
SWIFT カテゴリ7 MT700:信用状(L/C)サンプル
以下は、SWIFT MT700のサンプルです。早速見ていきましょう。
{1:F01XXXXJPJTAXXX0000000000}
{2:O7001234567890YYYYJPJTXXXX0000000000}
{4:
:27: 1/1
:40A: IRREVOCABLE
:20: LCREFXXXXXXX
:31C: YYMMDD ← 発行日
:40E: UCP LATEST VERSION
:31D: YYMMDDTOKYO ← 有効期限・提示場所
:50: [APPLICANT NAME / ADDRESS] ← 輸入者
:59: [BENEFICIARY NAME / ADDRESS] ← 輸出者
:32B: USDXXXXX, ← 金額
:41D: [ADVISING BANK INFO]
:42C: DRAFTS AT SIGHT
:42A: [DRAWEE BANK INFO]
:43P: PARTIAL SHIPMENTS ALLOWED
:44E: PORT OF LOADING: [XXXX]
:44F: PORT OF DISCHARGE: [XXXX]
:44C: LATEST DATE OF SHIPMENT YYMMDD
:45A: DESCRIPTION OF GOODS
[GOODS DESCRIPTION HERE]
:46A: DOCUMENTS REQUIRED
- COMMERCIAL INVOICE
- BILL OF LADING
- INSURANCE POLICY
:47A: ADDITIONAL CONDITIONS
- DOCUMENTS MUST STATE LC NO.
:71B: CHARGES OUTSIDE [COUNTRY] FOR BENEFICIARY'S ACCOUNT
:49: CONFIRMATION INSTRUCTIONS: WITHOUT
:53A: [ISSUING BANK SWIFT CODE]
:57D: [ADVISING BANK SWIFT CODE]
:72: SENDER TO RECEIVER INFORMATION
PLEASE ADVISE BENEFICIARY
-}
SWIFT カテゴリ7 MT700:信用状(L/C)の記載のポイント
MT700の記載ポイントとしては、主に以下のようなものがあります。
- :40A: 信用状の種類(Irrevocable=取消不能)
- :31C, :31D: 発行日・有効期限
- :50, :59: 申請者(輸入者)、受益者(輸出者)
- :32B: 金額と通貨
- :44E/F/C: 積出港・仕向港・最終船積期限
- :45A, :46A: 貨物の詳細と必要書類
- :71B: 費用負担区分
- :47A: 追加条件
SWIFT カテゴリ7 MT700:フィールド番号一覧表
| フィールド番号 | 内容 | 記載例 | 説明 |
|---|---|---|---|
| :27: | シーケンス番号 | 1/1 | 信用状が複数通し番号で分割される場合に使用。通常は「1/1」。 |
| :40A: | 信用状の種類 | IRREVOCABLE | 取消不能信用状を示す。基本的にL/CはIrrevocableで発行される。 |
| :20: | 信用状番号 | LCREFXXXXXXX | 発行銀行が付与する一意の参照番号。 |
| :31C: | 発行日 | 250930 | 信用状が発行された日付。形式:YYMMDD。 |
| :40E: | 適用規則 | UCP LATEST VERSION | UCP600など、信用状に適用される国際規則を明記。 |
| :31D: | 有効期限・提示場所 | YYMMDDTOKYO | 信用状の有効期限と、書類提示先(都市名や銀行)。 |
| :50: | 申請者(輸入者) | [APPLICANT NAME / ADDRESS] | 信用状の開設を依頼した輸入者。 |
| :59: | 受益者(輸出者) | [BENEFICIARY NAME / ADDRESS] | 信用状の代金受取人となる輸出者。 |
| :32B: | 金額と通貨 | USDXXXXX, | 信用状の金額と通貨。カンマで小数点を表す。 |
| :41D: | 通知銀行 | [ADVISING BANK INFO] | 発行銀行から信用状を通知する銀行。 |
| :42C: | 手形支払条件 | DRAFTS AT SIGHT | サイト払い(書類提示時に即支払い)など。 |
| :42A: | 引受銀行 | [DRAWEE BANK INFO] | 輸出者が振出す為替手形の支払銀行。 |
| :43P: | 分割船積 | PARTIAL SHIPMENTS ALLOWED | 部分船積を許可するか否か。 |
| :44E: | 積出港 | PORT OF LOADING: [XXXX] | 貨物が積み込まれる港。 |
| :44F: | 揚港(仕向港) | PORT OF DISCHARGE: [XXXX] | 貨物が陸揚げされる港。 |
| :44C: | 最終船積期限 | YYMMDD | この日付までに船積みが行われなければならない。 |
| :45A: | 貨物詳細 | [GOODS DESCRIPTION HERE] | 商品名、規格、数量など。契約書と一致する必要がある。 |
| :46A: | 必要書類 | - COMMERCIAL INVOICE など | 輸出者が提出すべき書類(Invoice、B/L、保険証券など)。 |
| :47A: | 追加条件 | DOCUMENTS MUST STATE LC NO. | 書類にL/C番号を明記するなど、補足条件を指定。 |
| :71B: | 手数料負担区分 | CHARGES OUTSIDE [COUNTRY] FOR BENEFICIARY'S ACCOUNT | 手数料を輸入者/輸出者のどちらが負担するか。 |
| :49: | 確認指示 | WITHOUT | 確認付信用状にするかどうか。WITHOUTは未確認。 |
| :53A: | 発行銀行SWIFTコード | [ISSUING BANK SWIFT CODE] | L/Cを発行した銀行のSWIFTコード。 |
| :57D: | 通知銀行SWIFTコード | [ADVISING BANK SWIFT CODE] | L/Cを通知する銀行のSWIFTコード。 |
| :72: | 銀行間通信欄 | PLEASE ADVISE BENEFICIARY | 銀行間での補足情報。受益者に通知を依頼する等。 |
SWIFT カテゴリ7 MT700:信用状(L/C)のメリット・デメリット

信用状を発行する際のMT700は、輸出者・輸入者双方にとって大きな安心材料となりますが、その一方でコストや手続き上の制約も伴います。以下に、実務上よく指摘される利点と留意点を整理しました。L/Cを介した決済において、MT700には以下の特徴があります。
メリット
- 輸出者は銀行の保証により代金回収リスクを大幅に低減できる
- 輸入者は、条件通りの書類が揃った場合のみ支払いとなるため安心
- 国際標準のSWIFT電文により、誤解や齟齬を防ぎやすい
これらの利点により、MT700を用いた信用状取引は国際貿易の基盤として長年利用され続けています。特に取引先との信用関係が十分に構築されていない場合や、初めての取引で代金回収の確実性を重視する場合に、その有効性が最大限に発揮されます。
デメリット
- 信用状発行や確認に手数料がかかる
- 書類不備により決済遅延や拒否のリスクがある
- 手続きが煩雑で時間を要する
一方で、手数料や手続きの煩雑さに加え、書類の不備による支払い遅延は実務上よく発生する課題です。輸出者・輸入者ともに事前に条件を十分に確認し、書類作成や提出スケジュールを厳格に管理することが、これらのリスクを最小化する鍵となります。
留意点
- 信用状条件と契約条件の差異確認:
発行されたL/C内容が契約書と完全に一致しているかを必ずチェックすること。差異がある場合は、速やかにアメンド(MT707)を依頼する必要がある。 - 書類作成の正確性:
輸出者側はインボイス、船荷証券(B/L)、保険証券などを厳密に条件通り作成しなければならない。小さな誤字・不一致でも不備扱いされる可能性がある。 - 有効期限・船積期限の管理:
L/Cの期限切れは支払い拒否のリスクに直結するため、スケジュール管理が重要。 - 銀行との連携:
発行銀行、通知銀行、交渉銀行との間で役割とフローを事前に確認し、責任の所在を明確にしておくこと。 - コストの把握:
発行手数料、確認手数料、銀行間の諸費用は取引コストに直結するため、契約段階で負担者を明確にしておく。
MT701, MT710, MT720との比較
- MT701:MT700の続報
- MT710:輸出者への通知
- MT720:信用状の譲渡
実務では以下の流れのとおりになります。
| 送信者 → 受信者 | 届く内容 | 主な用途・意味 |
|---|---|---|
| 輸入者(Applicant) → 発行銀行(Issuing Bank) | 信用状発行依頼(L/C申込書、契約条件、担保指示) | 銀行に対して「信用状を開設して欲しい」という依頼 |
| 発行銀行(Issuing Bank) → 通知銀行(Advising Bank) | MT700(信用状発行通知) | 信用状の正式開設を海外の銀行へ通知 |
| 発行銀行(Issuing Bank) → 通知銀行(Advising Bank) | MT701(続報通知) | すでに発行したMT700の追加情報・修正を伝達 |
| 通知銀行(Advising Bank) → 輸出者(Beneficiary) | MT710(信用状通知) | 発行銀行から届いたMT700を輸出者に伝える役割 |
| 発行銀行(Issuing Bank) → 通知銀行(Advising Bank) → 輸出者(Beneficiary) | MT720(譲渡信用状) | 輸出者が受けた信用状を第三者に譲渡する場合の通知 |
| 輸出者(Beneficiary) → 通知銀行(Advising Bank) | 船積書類一式(B/L、INVOICE、PACKING LISTなど) | 信用状条件に沿って書類を提出、代金請求を可能にする |
| 通知銀行(Advising Bank) → 発行銀行(Issuing Bank) | 輸出者提出の船積書類 | 発行銀行が条件一致を審査、支払い実行の判断材料 |
| 発行銀行(Issuing Bank) → 輸入者(Applicant) | 決済請求・船積書類 | 輸入者に支払い義務を通知し、商品引き取りを可能にする |
SWIFT カテゴリ7 MT700:信用状(L/C)のまとめ
MT700は、国際貿易における信用状取引の出発点となる重要なメッセージであり、輸出入双方に安心とリスク管理の枠組みを与えます。もっとも、信用状の利点を最大化するためには、発行条件の精査と関連メッセージとの適切な運用が不可欠です。取引全体の流れを理解し、銀行との連携を密に行うことで、円滑で安全な決済へとつなげることができます。