SWIFT MT199は、銀行間でやり取りする「自由形式のテキストメッセージ」です。
定型フォーマットが存在するMT103やMT195と異なり、内容を柔軟に記載できるため、確認・依頼・調整・通知など幅広く利用される万能型メッセージです。
SWIFT MT199の役割
MT199の役割は、主に次の3つの観点で整理できます。
1. 定型メッセージを補完する役割
2. 銀行間コミュニケーションの即応手段
- 急ぎの確認依頼や状況報告を電文で送ることができる。
- 電話やメールに比べ、SWIFT経由なのでセキュアかつ公式ログが残る。
- 「至急着金確認をお願いします」など、オペレーション上の柔軟なやり取りを可能にする。
3. リスク管理・トラブル対応の役割
- 誤送金の訂正や返金依頼など、緊急の調整手段として機能。
- コンプライアンスや制裁関連で取引を一時保留する場合の通知にも利用。
- 「正式な修正電文(MT192/292)を発行する前の暫定連絡」として運用されることもある。
MT199の利用されるケース
- 送金修正依頼
「口座番号を訂正してほしい」「受取人名義を修正」 - 追加連絡
「送金目的を追記」「契約番号を補足」 - トラブル対応
「誤送金が発生したので至急返金依頼」 - 実務上の調整
「着金確認をお願いします」「処理を優先してください」 - コンプライアンス関連
「顧客情報の確認依頼」「送金停止要請」
SWIFT MT199における実務上の注意点

自由度が高いがゆえに解釈の差が出やすい
- 定型メッセージと違い、書き方が銀行ごと・担当者ごとにバラつく。
- 「依頼なのか」「通知なのか」が曖昧になり、誤解や対応遅延につながることもある。
正式な修正依頼はMT192/292を使うのが原則
- MT199で修正依頼を送るケースも多いが、正式な改訂には192(顧客送金修正依頼)や292(金融機関振替修正依頼)を使わなければならない。
- MT199だけに頼ると、監査時に「正式手続きではない」と指摘されるリスクあり。
内部監査・コンプライアンスでログが重視される
- SWIFTメッセージは監査証跡(audit trail)として残るため、199の使用履歴も全て検証対象。
- 曖昧な表現や非公式なやり取りを199に載せると、後に「証拠」として扱われてしまう。
乱用するとブラックボックス化するリスク
- 本来ならMT195(照会)やMT103(送金)で処理すべき内容を199に書き込むと、業務が不透明になる。
- 「正式メッセージ+補足199」の二段構えが理想であり、199単独利用は最小限にすべき。
よくある誤用例
- 契約変更や送金キャンセルを199で伝達してしまう(本来は192/292が必要)。
- 顧客に説明できない内容を「銀行間のメモ」として199で処理し、後で齟齬が発覚。
- 緊急時に199で送った依頼を、正式メッセージに切り替えないまま放置してしまう。
下記は、実務現場で混同されやすい 「良い199(適正な使い方)」と「悪い199(誤用・リスクのある使い方)」 を対比した表です。監査やSWIFT運用部門の観点も踏まえ、現場での判断指針として使える構成にしています。
良いMT199と悪いMT199の比較表
| 区分 | MT199 (適正使用) | MT199 (誤用・リスクあり) | 補足コメント |
|---|---|---|---|
| 目的 | 情報共有・照会・補足説明など、定型メッセージを補完する用途 | 支払指示・契約変更・キャンセルなど、本来は正式メッセージ(MT192/292等)で行うべき内容 | MT199は「情報伝達」用途に限定することが原則 |
| 内容の明確さ | 「通知」「確認」「依頼」など、目的が明示されている | 文面が曖昧で、依頼なのか通知なのか判断できない | 曖昧表現(e.g. “Please advise”)は避け、明確な目的を示す |
| 正式手続きとの関係 | 本メッセージ(MT103/700等)に関連し、補助・補足的に送信 | 正式手続きの代替として送信し、他のメッセージを発行しない | 199単独で完結させると監査時に指摘対象となる |
| 監査・ログ対応 | 内容が正確で記録として残しても問題ない | 非公式・曖昧な表現を含み、後に「証拠」として問題化する | SWIFTログはすべて保管されるため、内部文書と同等の扱い |
| 相手識別情報 | 必要最小限に留め、守秘義務に配慮 | 顧客名・口座番号・契約内容などをそのまま記載 | 匿名化・伏字化を徹底することで情報漏えいを防止 |
| 対応スピード | 緊急時の「暫定連絡」として即時発信し、後日正式電文で補完 | 緊急対応のまま正式化せず放置 | 暫定連絡後は、必ず正式電文で確定処理すること |
| 内部管理 | 発信前に内容をダブルチェックし、上長・担当者承認を経る | 担当者判断のみで送信 | 銀行・企業ともに内部承認フローの整備が重要 |
| 使用頻度 | 定型メッセージの補完として限定的に利用 | 日常的に199で済ませてしまう | 乱用すると業務のブラックボックス化を招く |
「199だけで処理を完結させない」 のが最大の鉄則です。199は「連絡・補足・緊急対応」のための一時的なメッセージであり、正式な契約・送金修正・承認には他の電文(MT192/292など)を使用すべきです。監査・法的観点では、199も「公式記録」として扱われます。軽い気持ちのメモ送信が後のトラブル原因になることもあります。
SWIFT MT199のメッセージ例(サンプル)
以下はMT199のサンプル電文です。
{1:F01XXXXJPJTAXXX0000000000}{2:I199XXXXGB2LXXXXN}{3:{108:TESTREF0002}}{4:
:20:TR20251011-0002
:21:RELATED-REF-001
:79:/INFO/
1) Reference: TR20251011-0002
2) Status: Preliminary confirmation of receipt of documents (no originals attached)
3) Note: Documents reviewed internally; discrepancies noted and logged.
4) Action: No payment instruction. Monitoring only.
5) Contact: Internal Operations — Ref Code OP-XXXX (do not share externally)
6) Confidentiality: This message intentionally omits any identifying counterparty details.
-}
{5:{CHK:1111111111}}
日本語に翻訳したものがこちら
{1:F01XXXXJPJTAXXX0000000000}{2:I199XXXXGB2LXXXXN}{3:{108:TESTREF0002}}{4:
:20:TR20251011-0002
:21:RELATED-REF-001
:79:/INFO/
1) 参照番号:TR20251011-0002
2) ステータス:書類受領の一次確認(原本は未添付)
3) 注記:書類は社内で確認済み。不備事項を特定し、記録しています。
4) 対応:支払指図は含まれません。モニタリング目的のみです。
5) 連絡先:社内オペレーション部門 — 管理コード OP-XXXX(外部共有不可)
6) 機密性:このメッセージには、取引相手を特定できる情報は意図的に含めていません。
-}
{5:{CHK:1111111111}}
SWIFT MT199 各フィールド一覧
| フィールド | 内容 | 説明 | 記載例 |
|---|---|---|---|
{1:} | Basic Header(送信者ヘッダー) | 送信銀行のBICコードやメッセージ制御番号など、システム管理情報を含む。 | {1:F01XXXXJPJTAXXX0000000000} |
{2:} | Application Header(宛先ヘッダー) | 受信銀行のBICコードやメッセージ種別(I199 など)を指定する。 | {2:I199XXXXGB2LXXXXN} |
{3:} | User Header(任意情報) | 参照番号や追跡コード(例:108フィールド)を格納する。 | {3:{108:TESTREF0002}} |
:20: | トランザクション参照番号 | 送信者が一意に管理する取引番号。内部管理・照会時に利用。 | :20:TR20251011-0002 |
:21: | 関連参照番号 | 以前のメッセージや関連取引を示す参照番号。 | :21:RELATED-REF-001 |
:79: | 本文(フリーテキスト) | 連絡・照会・通知など、自由形式でメッセージ内容を記載する欄。支払や具体的な契約指示は避ける。 | :79:/INFO/ 書類受領の一次確認。支払指図は含まれません。 |
{5:} | Trailer(トレーラー) | チェックサム(CHK)や署名情報を含むシステム末尾ブロック。 | {5:{CHK:1111111111}} |
SWIFT MT199 のまとめ
MT199は、SWIFTメッセージの中で最も柔軟に使える「自由書式のテキストメッセージ」です。定型フォーマット(MT103・MT195など)に収まらない、細やかな確認・連絡・修正・通知を補うために利用され、銀行間コミュニケーションの潤滑油 的な存在といえます。
実務では、送金や信用状などの本メッセージを支える「補助メッセージ」として使われることが多く、
例えば「着金確認のお願い」「書類不備の通知」「顧客情報の追跡」など、運用現場で頻繁に登場します。
ただし、自由度が高い反面、正式性が低くなりがち なのも特徴です。誤送金の訂正や契約内容の変更など、法的・会計的に重要な処理は、必ずMT192/MT292などの正式修正電文で行う必要があります。MT199はあくまで「暫定連絡」「補足説明」「照会回答」といった一時的・補助的な通信に留めるのが原則です。
さらに、SWIFTメッセージはすべて監査証跡(audit trail)として保存されるため、199のやり取りも正式記録として残ります。軽いメモや曖昧な表現でも、後に「証拠資料」として扱われるリスクがあるため、内容は常に正確かつ明確に記述することが求められます。
つまり、MT199は「スピードと柔軟性を両立した補完ツール」である一方、「誤用すればリスクを生む二面性のあるメッセージ」です。定型メッセージ(MT103・MT195など)を基軸とし、MT199をその補助・連絡・調整ツールとして正しく運用することが、安全で透明性の高い国際金融取引を維持する鍵となります。