ステーブルコインによる国際送金のコスト比較|SWIFTとの違いを徹底解説【実務視点】

ステーブルコインによる国際送金のコスト比較|SWIFTとの違いを徹底解説【実務視点】

はじめに|国際送金の「高コスト構造」が変わりつつある

貿易や海外取引で避けて通れない「国際送金」。これまで世界の決済インフラを支えてきたのはSWIFT(国際銀行間通信協会)ですが、その仕組みは古く、手数料・中継銀行・為替コストが重なることで1件あたり数千円〜数万円の費用が発生します。

一方、ステーブルコインを使えば、ブロックチェーン上でほぼ即時・低コストで国際送金が可能になりつつあります。この記事では、SWIFT送金とステーブルコイン送金の構造を比較し、実務でどの程度コスト差が出るのかを具体的に解説します。

基本的なことについては、こちらの記事をご覧ください。

SWIFTによる国際送金の仕組みと課題

SWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)は、1970年代から続く銀行間メッセージネットワークです。実際の資金は各銀行の口座間で動かす必要があり、多くの場合、中継銀行(correspondent bank)を介して資金が移動します。

このため、以下のような課題が存在します。

  • 中継銀行手数料: 銀行ごとに10〜50米ドル程度の手数料が発生
  • 送金時間: 通常2〜5営業日(国・通貨によっては1週間以上)
  • 為替コスト: 為替スプレッド(1〜3%)が加算
  • 可視性の低さ: 送金追跡が難しく、途中で遅延・差戻しもあり

たとえば、10,000USDを送る場合、最終的に受取人に届く金額は9,850USD前後になるケースもあります。この「見えない損失」が、企業にとっての負担となっています。

ステーブルコイン送金の仕組みと特徴

ステーブルコイン送金は、ブロックチェーン上でトークン化された法定通貨を直接移動させる仕組みです。送金経路に中継銀行が存在せず、発行元ウォレット → 受取ウォレットへのダイレクト送金が行われます。

代表的な送金通貨としては以下が挙げられます。

  • USDT(Tether): 米ドル連動。取引量世界最大。
  • USDC(Circle社): 規制対応が進み、金融機関利用も多い。
  • JPYC・Progmat Coin 日本円連動型。国内送金にも対応予定。

送金にかかる手数料はブロックチェーンのネットワーク手数料のみ。たとえばEthereum上のUSDC送金なら数十円〜数百円、PolygonやTronネットワークなら1円未満で完了する場合もあります。

SWIFTとステーブルコインのコスト比較

比較項目SWIFT送金ステーブルコイン送金
送金時間2〜5営業日数秒〜数分
手数料2,000〜5,000円+中継銀行費用0〜数十円(ネットワーク手数料)
為替リスク高(送金時点と受取時点に差)低(即時反映)
追跡・透明性限定的(銀行依存)ブロックチェーン上で全履歴を確認可能
取引上限銀行審査・制限ありウォレット残高範囲で柔軟に可能

この比較からも分かるように、ステーブルコイン送金は速度・コスト・可視性の面で圧倒的に優れています。ただし、法的整備・AML(マネーロンダリング対策)の観点では、依然として課題が残ります。

ケース別コスト比較|地域・通貨ごとに見える実際の差

ステーブルコイン送金の優位性は「どの国からどの国へ送るか」によっても大きく異なります。ここでは、実際の送金パターンを3例取り上げ、SWIFTとのコスト差を比較してみます。

ケース送金ルートSWIFT送金の平均コストステーブルコイン送金(USDC / Tron / Polygon)備考
ケース①:日本 → 米国(商社の輸入代金)JPY → USD約5,500円(送金+為替+中継銀行)約15円(USDC送金+換金手数料)最も一般的なケース。米ドル建てUSDCが安定。
ケース②:UAE → インド(出稼ぎ送金)AED → INR約3,000円(仲介銀行+為替スプレッド)約10円(USDT送金+ローカル取引所換金)労働者の少額送金。Tronネットワーク利用で数秒送金可能。
ケース③:ブラジル → 日本(貿易決済)BRL → JPY約6,000円(中継銀行3行経由)約30円(USDC経由、Polygonブリッジ)南米は銀行インフラが不安定なため、ブロックチェーンの優位性が顕著。
ケース④:ドイツ → ナイジェリア(B2B決済)EUR → NGN約7,000円(送金日数4〜7日)約25円(USDT送金+P2P換金)アフリカ地域は受取側の銀行制約が多く、暗号資産が代替送金手段に。

これらの比較から明らかなように、ステーブルコイン送金は**通貨を選ばずに共通の手数料構造**を持つため、
通貨価値の変動が大きい新興国間の取引や、頻繁な少額送金で特に効果を発揮します。

一方で、法定通貨への換金ルート(オン/オフランプ)が未整備な地域では、現地での受取体制が課題となるため、
今後は各国の規制整備と金融機関の提携が重要になります。

実務でのコストシミュレーション

ここでは、企業が1万ドルを送金する場合の概算コストを比較してみましょう。

項目SWIFT経由USDC(Polygon)送金
送金手数料40USD(約6,000円)0.02USD(約3円)
為替スプレッド1.5%(150USD)0(ドル建て維持)
着金までの時間2〜4営業日約30秒
受取側コスト銀行着金手数料:15USD0(ウォレット受取)
合計コスト約205USD0.02USD

このように、ステーブルコイン送金は金額にして1/10,000以下のコストで送金できる計算になります。
特に中小企業や個人事業主にとっては、国際取引のハードルを大きく下げる可能性があります。

実務でのコストシミュレーション|通貨別に見るコスト差

ステーブルコイン送金のコストは、送金通貨や利用ネットワークによっても異なります。ここでは、米ドル以外の実務的な3パターン(ユーロ・人民元・シンガポールドル)を例に、従来のSWIFT送金と比較してみましょう。

ケース送金通貨SWIFT経由ステーブルコイン送金(想定)コスト差
ケース①:フランス → 日本(機械部品輸出代金)EUR → JPY手数料:35EUR(約5,700円)
為替スプレッド:1.8%(約90EUR)
着金まで:3営業日
USDC(Euro Coin)を利用
ネットワーク手数料:0.15EUR(約25円)
着金まで:約1分
約95EUR(約15,000円)節約
ケース②:中国 → マレーシア(電子部品仕入)CNY → MYR手数料:120CNY(約2,400円)
為替スプレッド:1.5%(約150CNY)
着金まで:4営業日
USDT(Tronネットワーク)利用
ネットワーク手数料:約1CNY未満
着金まで:数十秒
約260CNY(約5,200円)節約
ケース③:シンガポール → インド(IT委託費支払い)SGD → INR手数料:25SGD(約2,700円)
為替スプレッド:2%(約50SGD)
着金まで:2〜3営業日
USDC(Polygonネットワーク)利用
ネットワーク手数料:0.01SGD(約1円)
着金まで:30秒
約75SGD(約8,000円)節約

この比較から、ステーブルコイン送金は主要通貨間においても90〜99%以上のコスト削減を実現できることが分かります。特に、多通貨決済・貿易・IT外注のような国際的な業務では、送金の即時性と為替安定性の恩恵が非常に大きくなります。

また、近年ではEuro Coin(EURC)XSGD(シンガポールドル連動ステーブルコイン)など、地域通貨型のトークンも増えており、ブロックチェーン上で「多通貨ウォレット」運用を行う企業が増加しています。

ステーブルコイン送金の実務上の注意点

ただし、現時点でステーブルコイン送金を実務利用する際には次のような注意点があります。

  • 法定通貨への交換ルート: 受取側が法的に換金できる仕組みが必要。
  • 規制対応: 各国の資金移動法・暗号資産規制への準拠。
  • 取引記録の保存: 企業会計・監査に備えたエビデンス管理。
  • 税務処理: 評価益・為替換算差額の取扱いに注意。

日本では、2025年の改正資金決済法によって「電子決済手段」としての扱いが整備されましたが、法人が海外へ直接送金する場合は依然として金融庁の監督下にあります。

まとめ|コストは劇的に下がるが「制度」との両立が鍵

ステーブルコイン送金は、既存の国際送金を大きく変革する可能性を持っています。手数料・速度・透明性の面では圧倒的な優位性を持つ一方、制度面・AML対応の課題が残されています。今後は、金融庁や各国規制当局が整備を進める中で、合法的・安全に利用できる枠組みが整うかどうかがカギです。

「SWIFTの信頼性 × ブロックチェーンのスピード」――その融合こそが、次の国際決済の姿かもしれません。

2025年10月21日 | 2025年10月30日