近年の国際情勢では、紛争や戦争、経済制裁、政情不安が複雑に絡み合い、貿易取引のリスクは急速に高まっています。 とくに新規取引では、「相手国に大きな問題はなさそう」という感覚的な判断が、代金未回収や物流停止といった深刻なトラブルにつながるケースも少なくありません。 本記事では、2026年時点の国際情勢を踏まえ、新規取引において原則として避けたい国・地域を整理し、その理由と実務上の考え方を解説します。
新規取引では原則避けたい国とは
ここでいう「原則避けたい国」とは、必ずしも取引が完全に不可能な国を指すものではありません。 しかし、制裁・紛争・治安・金融インフラ・物流のいずれか、または複数に重大な不安要素があり、新規取引においてはリスクが極めて高い国・地域を指します。 既存取引や特殊なスキームを除き、初取引では慎重、もしくは見送る判断が合理的とされるケースが多い点が特徴です。
なぜ新規取引では「避ける判断」が重要なのか
紛争や戦争、制裁リスクが高い国との取引では、「契約を結べば何とかなる」という考え方が通用しないケースが多く見られます。 最大の理由は、トラブルが発生した際に、当事者の努力だけでは解決できない要因が多すぎる点にあります。 送金が制裁や銀行判断で一方的に停止される、港湾が突然閉鎖される、政府の命令で輸出入が禁止されるなど、企業側ではコントロール不可能な事態が頻発します。
とくに新規取引では、相手企業の実態把握や信頼関係が十分でないため、問題が起きた場合の情報収集や交渉が極めて困難になります。 仮に契約書を交わしていても、現地の司法制度が機能していなかったり、国際的な制裁下にある場合は、法的手段そのものが実行できないこともあります。 結果として、代金未回収や貨物損失が発生しても、現実的な回収手段が存在しない状況に陥りがちです。
こうした国・地域では、「取引できるかどうか」よりも、「最悪の事態が起きたときに自社が耐えられるか」という視点が重要になります。 新規取引の段階であれば、無理にリスクを取らず、取引を見送る判断そのものが有効なリスク管理となります。 避けるという選択は消極的な判断ではなく、事業を継続するための現実的で合理的な意思決定だと言えます。
初心者がやりがちな危険な誤解
紛争や戦争、制裁リスクが高い国との貿易において、初心者が陥りやすいのが「取引条件を工夫すれば何とかなる」という誤解です。 たとえば、契約書をしっかり作り込めば大丈夫、前払いにすれば安全、信用状を使えば問題ないと考えてしまうケースがあります。 しかし、これらは平時の取引では有効でも、地政学リスクが高い国では前提条件そのものが崩れることがあります。
よくある誤解の一つが、「相手企業は真面目そうだから大丈夫」という判断です。 紛争下や制裁下では、相手企業に悪意がなくても、政府命令や銀行判断によって送金や出荷が突然止まることがあります。 この場合、相手を責めることも交渉することもできず、契約上の責任を追及する実務的な手段もほとんど残りません。
また、「小額取引だからリスクは低い」という考え方も危険です。 金額が小さくても、制裁違反や資金洗浄対策に抵触すれば、銀行口座の凍結や追加調査につながる可能性があります。 結果として、当該取引以上の時間的・事務的コストを支払うことになり、事業全体に影響が及ぶこともあります。
さらに、「これまで問題がなかった国だから今回も大丈夫」という過去実績への過信も注意が必要です。 紛争や制裁は短期間で状況が激変するため、昨日まで安全だった取引が、今日突然リスク取引に変わることも珍しくありません。 初心者ほど、過去の経験や一般論に頼らず、常に最新の情勢を前提に判断する姿勢が求められます。
新規取引では原則避けたい国リスト(超要注意)
| 地域 | 国名 | 主なリスク要因 |
|---|---|---|
| 東アジア | 北朝鮮 | 全面的な国際制裁、決済・物流が事実上不可能 |
| 東欧 | ロシア | 大規模制裁、決済停止、物流・保険制限 |
| 東欧 | ベラルーシ | 制裁対象国、ロシア関連の二次制裁リスク |
| 中東 | イラン | 経済制裁、二次制裁、決済銀行リスク |
| 中東 | シリア | 内戦継続、港湾・物流・決済が極めて不安定 |
| 中東 | イエメン | 内戦状態、港湾封鎖、治安悪化 |
| 南アジア | アフガニスタン | 治安不安、金融インフラ機能不全 |
| アフリカ | スーダン | 内戦、政権不安定、通関・物流リスク |
| アフリカ | ソマリア | 治安崩壊、海賊リスク、保険制限 |
| 中南米 | ベネズエラ | 経済制裁、外貨・決済規制、政治不安 |
| 中米 | ハイチ | 政情不安、治安崩壊、物流機能低下 |
これらの国で起きやすいトラブル
- 送金が途中で止まり、代金回収ができない
- 制裁・規制の強化で突然輸出入が禁止される
- 港湾閉鎖や航路変更で納期が大幅に遅延する
- 保険が付保できず、事故時の損失が全額自己負担になる
- 契約履行が不可能になっても、法的救済が機能しない
それでも取引を検討する場合の考え方
業種や商流によっては、これらの国と取引せざるを得ないケースもあります。 その場合は、通常の新規取引とは異なる判断基準が必要です。
- 前受金比率を極端に高める、または全額前払いにする
- 取消不能信用状(L/C)を利用し、確認銀行を付ける
- 制裁・不可抗力条項を契約書に明確に盛り込む
- 決済銀行・物流ルート・保険条件を事前に全て確認する
まとめ

新規取引では、「取引できるかどうか」ではなく、「何か起きたときに回収できるか」という視点が重要です。 紛争・戦争・制裁リスクが高い国では、契約や信用だけでリスクを管理することは難しく、取引そのものを見送る判断が最も合理的な対策となる場合もあります。 本記事のリストを出発点として、実際の取引前には必ず最新の公的情報や金融機関の判断を確認し、慎重な意思決定を行うことが重要です。
参考外部リンク
- 外務省 海外安全ホームページ(危険情報一覧)
国・地域別に治安や紛争状況を確認できる公式情報。地域限定の危険情報も掲載されています。 - 米国財務省 OFAC Sanctions Programs and Country Information
米国の経済制裁プログラムや対象国・対象者を確認するための一次情報源です。 - EU Sanctions Map
EUによる制裁対象国・分野・内容を視覚的に確認できる公式サイトです。 - 日本貿易振興機構(JETRO) 海外ビジネス情報
各国の政治・経済情勢、貿易規制、投資環境に関する実務向け解説があります。 - 日本銀行 国際金融・決済に関する解説
国際決済や金融制裁が実務に与える影響を理解するための基礎資料です。