紛争や戦争、経済制裁が続く国・地域との貿易では、理屈では理解していても「実際に何が起きるのか」を具体的に想像できていないケースが少なくありません。 とくに新規取引では、過去の経験や一般論が通用せず、突然トラブルに直面することがあります。 本記事では、紛争・制裁下で実際に起きやすい代表的なトラブルを、具体例ベースで整理します。
事例1:送金が突然止まり、代金が回収できなくなる
取引自体は合法で、相手企業にも支払う意思があるにもかかわらず、送金が途中で止まるケースがあります。 原因は、送金経路上の銀行が制裁リスクやマネーロンダリング対策の観点から、取引を一方的にブロックすることです。 この場合、送金は「保留」や「差し戻し」状態となり、数週間から数か月にわたって資金が動かないこともあります。
特に新規取引では、銀行側が慎重になりやすく、追加資料の提出や詳細な取引説明を求められます。 最終的に送金が成立しないまま、事実上の未回収となるケースも珍しくありません。
事例2:貨物が港や空港で止まり、動かなくなる
出荷自体は完了しているにもかかわらず、貨物が港や空港で止まってしまうケースもあります。 紛争の激化や政情不安により、港湾が一時閉鎖されたり、特定地域向けの貨物が検査対象となることが原因です。
この場合、貨物は積み替えや返送ができず、保管料だけが日々積み上がっていきます。 最終的に貨物を放棄せざるを得ず、商品代金と物流費の両方を失うケースもあります。
事例3:保険が下りず、損失が全額自己負担になる
紛争・戦争が絡む地域では、通常の貨物保険が適用されないことがあります。 戦争危険担保が付いていない場合、破損・焼失・没収が発生しても保険金が支払われません。
「保険に入っているから大丈夫」と思っていても、約款上は免責となるケースがあり、 実際に事故が起きて初めて補償対象外だと判明することもあります。
事例4:銀行から突然、厳しい照会が入る
取引開始後、ある日突然、取引銀行から詳細な照会が入ることがあります。 取引の背景、最終需要者、用途、第三国経由の有無など、通常以上に細かい説明を求められます。
十分な説明ができない場合、当該取引だけでなく、関連する口座全体が一時凍結されることもあります。 結果として、他の通常取引にも影響が及ぶ可能性があります。
これらのトラブルに共通する特徴
- 相手企業に悪意がなくても発生する
- 契約書や取引条件では防げない
- 事前に予兆が見えにくい
- 発生後に取れる選択肢が極端に少ない
これらの点が、紛争・制裁下の取引を特に難しくしています。 問題が起きてから対応するのではなく、起きる前提で判断する必要があります。
新規取引で重要になる考え方
紛争・制裁リスクがある国・地域との新規取引では、 「トラブルが起きない前提」で条件を組むこと自体がリスクになります。 最初から取引を見送る、もしくは条件を大幅に厳しくする判断も、 実務上は十分に合理的な選択肢です。
まとめ

紛争や制裁下の貿易では、送金停止、物流停止、保険不適用、銀行照会といったトラブルが現実に発生します。 これらは特別な事例ではなく、「あり得る話」として常に想定すべきリスクです。 新規取引においては、契約や条件だけに頼らず、最悪のケースを前提にした慎重な判断が、事業を守ることにつながります。
参考外部リンク
- 外務省 海外安全ホームページ(危険情報一覧)
紛争・治安悪化地域を国別・地域別に確認できる公式情報です。 - 米国財務省 OFAC Sanctions Programs and Country Information
制裁対象国・個人・企業に関する一次情報を確認できます。 - EU Sanctions Map
EUの制裁内容や対象分野を地図ベースで把握できます。 - 日本貿易振興機構(JETRO) 海外ビジネス情報
各国の政治・経済情勢や貿易規制を実務向けに解説しています。 - 国土交通省 海事・物流関連情報
国際物流や港湾、輸送に関する公的情報を確認できます。