MT799は、銀行間の自由形式メッセージ(Free Format Message)として広く用いられるSWIFT電文です。特定の契約書類や信用状に直接結びつかない場合でも、送金や信用取引における事前確認、条件通知、保証的な意思表示などに利用されます。
特にスタンバイ信用状(SBLC)や保証取引の現場では、当事者間での合意形成を円滑に進めるための「前置きメッセージ」として重要な役割を担っています。
SWIFT MT799の主な用途
事前合意の確認
MT799は、いわば「約束手形の下書き」のような役割を担います。たとえばSBLCの発行を控えた段階で、輸入者側の銀行が「条件が整えば正式にSBLCを発行する準備がある」と伝えることで、輸出者や仲介者は安心して次のステップに進めます。これは実務上、契約書や信用状発行の「緊張感を和らげる」役割を果たし、相手方に信頼感を与えるための重要なやり取りです。
条件付きの保証通知
実務では「まだ資金は凍結していないが、買主側で確保の手続きを進めている」といった状況を伝えるために用いられます。たとえば輸入者側銀行が、輸出者側銀行に対して「資金調達の目処が立った、残りは手続き完了次第」と通知する場面です。これにより、輸出者側は出荷準備のスケジュールを前倒しにしたり、契約条件を再確認したりと、より実務的な判断を下しやすくなります。
補足説明や情報提供
定型メッセージ(例:MT700の信用状通知やMT760の保証)だけでは伝えきれない「事情説明」を補足するためにも重宝されます。たとえば「受益者の社名が変更になったため、関連書類の修正が必要」といった背景事情や、「管轄当局からの承認待ちで遅延が生じている」といった状況報告です。これは取引当事者にとって「事務的な透明性」を高める効果があり、余計な誤解やトラブルを防ぐ働きをします。
SWIFT MT799の実務で利用されるケース

Case1:SBLC発行前の事前通知
ある輸出契約で、買主(輸入者)がSBLCを通じて支払を保証する予定だったとします。しかし、まだ正式なSBLCは発行されていません。この段階で輸入者側銀行は、輸出者側銀行へ MT799 を送信し、「デューデリジェンスが完了次第、USD 5,000,000 のSBLCを発行予定である」と通知します。
この一報により、輸出者は契約が進行している安心感を得て、出荷準備に踏み切ることが可能になります。
Case2:資金準備中の通知
買主の資金調達が完了するまでに時間がかかるケースがあります。この場合、輸入者側銀行は輸出者側銀行へMT799を使い、「資金の一部が確保済み、残額も今週中に口座に反映予定」と通知します。このメッセージは正式な保証ではありませんが、輸出者にとっては進捗状況を把握できる重要な情報となり、リスク判断に活かされます。
Case3:契約条件や背景事情の補足説明
信用状や保証の定型フォーマットでは伝えきれない情報も、MT799を通じて伝達されます。
例えば、
・「受益者の商号が変更されたため、関連書類の修正が必要」
・「規制当局の承認待ちにより、正式発行が数週間遅れる見込み」
といった内容です。これにより、双方の当事者は透明性を確保しつつ、不要な誤解や交渉トラブルを回避できます。
SWIFT MT799のサンプル

以下に、MT799のサンプル電文を記述します。
{1:F01XXXXJPJTAXXX1234567890}
{2:I799YYYYUS33XXXXN}
{4:
:20:REF20250930-001
:21:SBLC-AGREEMENT-XXXX
:79:WE HEREBY CONFIRM THAT SUBJECT TO THE SUCCESSFUL COMPLETION
OF DUE DILIGENCE AND INTERNAL COMPLIANCE APPROVAL,
OUR BANK [XXXX JP BANK] IS READY, WILLING AND ABLE TO ISSUE
A STANDBY LETTER OF CREDIT (SBLC) IN FAVOR OF
[XXXX TRADING COMPANY] FOR THE BENEFIT OF [XXXX LTD].
THE INSTRUMENT WILL BE ISSUED FOR AN AMOUNT OF
USD 10,000,000 (TEN MILLION UNITED STATES DOLLARS)
WITH AN INITIAL VALIDITY OF ONE YEAR, RENEWABLE.
PLEASE NOTE THAT THIS MESSAGE IS INTENDED AS A
PRE-ADVICE ONLY AND DOES NOT CONSTITUTE A LEGALLY
BINDING COMMITMENT UNTIL FORMAL ISSUANCE OF THE SBLC.
KINDLY ACKNOWLEDGE RECEIPT OF THIS MESSAGE.
-}
サンプルの意味
- :20: REF20250930-001
銀行内でこの案件を一意に管理するための参照番号。後続のやり取りでも同じ番号を引用する。 - :21: SBLC-AGREEMENT-XXXX
関連する契約番号。輸入者と輸出者が合意した契約やSBLC準備案件にリンクさせるためのフィールド。 - :79: Narrative
自由記述欄。ここで「SBLCを発行予定であるが、現時点では事前通知にすぎない」ことを明示している。
具体的には、- 発行銀行名(伏字XXXX JP BANK)
- 発行予定額(USD 10,000,000)
- 有効期限(一年間、更新可能)
- 事前通知である旨の但し書き
が盛り込まれ、現場で必要とされる「安心感と条件明示」を両立している。
SWIFT MT799のフィールド番号・ラベル・記載例・意味
フィールド番号 | ラベル | 記載例 | 意味 |
---|---|---|---|
:20: | Transaction Reference Number | REF20250930-001 | 案件を一意に識別する内部参照番号 |
:21: | Related Reference | SBLC-AGREEMENT-XXXX | 契約や関連案件番号を示す |
:79: | Narrative (自由記述) | READY, WILLING AND ABLE… | 条件通知、金額、有効期限、免責文を記載 |
SWIFT MT799のメリット・デメリット・留意点
メリット
MT799の最大の魅力は、その「柔軟さ」と「即応性」です。定型化された電文に比べ、実務の現場で求められる微妙なニュアンスや、当事者間で合意に至る前の確認事項を伝えるのに適しています。これにより、金融取引や貿易取引におけるスムーズな進行を後押しします。
- 柔軟な情報伝達:他の定型電文では伝えにくい「前置き」や「補足説明」を自由に伝達可能。
- 合意形成の迅速化:契約書や信用状の発行前に、当事者間で安心感を醸成できる。
- 汎用性:LC、SBLC、保証など幅広い取引で利用可能。
これらのメリットにより、MT799は「プロセスを円滑にする潤滑油」として重宝されています。ただし、柔軟であるがゆえに、その恩恵を最大限に引き出すには適切な使い分けが求められます。
デメリット
一方で、MT799には明確な制約も存在します。特に法的拘束力が薄いという特性は、相手方との信頼関係や取引の性質によってはリスク要因にもなり得ます。
- 法的拘束力の弱さ:正式な支払保証を伴わないため、誤解を招く場合がある。
- 乱用のリスク:実体を伴わない「空約束」的な利用は、トラブルや信用低下を招く。
- 解釈の不一致:自由形式であるがゆえに、相手銀行によって解釈が異なる場合がある。
このようなデメリットを理解しておくことで、MT799を「便利だから多用する」のではなく、あくまで取引を補助する限定的な手段として位置付けることが重要になります。
留意点
メリットとデメリットを踏まえると、実務でMT799を扱う際には「誤用を防ぐ」ことが最大のポイントとなります。メッセージの位置づけや範囲を明確にしておくことが、取引の安全性を高めます。
- 位置づけの明確化:MT799は「事前通知」や「意思表示」にすぎず、正式な信用状やSBLCの代替ではないことを関係者に説明する必要がある。
- 使用範囲の限定:案件管理や銀行間合意の補助にとどめ、法的拘束力を持つ文書と混同しないことが重要。
- 誤用防止:過去には「MT799が保証そのもの」と誤解されるケースがあり、金融当局も注意喚起を行っている。
こうした留意点を意識することで、MT799を「信頼を補強するメッセージ」として正しく活用でき、不要なトラブルを未然に防ぐことが可能となります。
SWIFT MT799のまとめ

MT799は、定型フォーマットでは伝えきれない事前通知や補足説明を可能にする、非常に便利なメッセージです。特にSBLCや保証取引の現場では、正式文書の発行前に相手方へ安心感を与え、信頼関係を構築する役割を果たします。
本文で解説したとおり、MT799の主な強みは「柔軟性」「即応性」「汎用性」にあり、国際取引の舞台でスムーズな交渉と準備をサポートします。
MT799の要点
- 用途:事前合意の確認、条件付き保証通知、補足説明など
- サンプル:自由形式メッセージでSBLC準備状況や条件を伝達可能
- メリット:柔軟かつ汎用的で、合意形成を迅速化できる
- デメリット:法的拘束力が弱く、乱用や誤解のリスクがある
- 留意点:位置づけを明確にし、正式文書の代替として誤用しないこと
結局のところ、MT799は「法的効力のある保証」ではなく、「信頼を前提とした橋渡しツール」です。
便利である一方、誤解を招けば取引全体の信頼を損ねる恐れもあります。したがって、利用する際は必ず関係者全員に位置づけを共有し、あくまで正式な信用状やSBLCの補助的手段として活用することが重要です。