MT103の概要
MT103は、顧客からの単一送金を指示するために利用されるSWIFT標準メッセージです。銀行間での資金移動に使われ、国際送金や貿易決済で最も広く用いられています。契約書に「支払条件:MT103送金」と記載されることもあるほど、実務上で重要な役割を持っています。
MT103の基本情報

- カテゴリ:MT1xx(顧客支払・小切手)
- 正式名称:Single Customer Credit Transfer(単一顧客送金)
MT103のメッセージの目的
顧客(送金依頼人)が発信銀行を通じて、受取銀行に対して「一件の送金」を指示するために使用されます。給与や大量送金を扱うMT102と異なり、MT103は1件単位で正確に処理されるのが特徴です。
- 国際送金の標準フォーマットとして最も一般的に利用
- 送金人・受取人・金額・通貨・送金目的・手数料区分などを詳細に規定
- 契約書やL/C(信用状)の条件に「MT103送金」が指定されることも多い
- STP(Straight Through Processing:全自動処理)を意識したフォーマットで、銀行システム間で効率的に処理可能
MT103の背景
SWIFTネットワークは、銀行間の送金における誤認や不整合を減らす目的で標準化されたメッセージ体系を持っています。その中でもMT103は、顧客送金に関して「世界共通言語」として使われており、輸入業者が輸出業者に支払いを行う典型的なケースで利用されます。
MT103が利用されるケース
MT103は「単一顧客送金」を扱うため、日常的な海外送金から大口の商取引まで幅広く、かなりの件数が活用されます。
貿易決済
輸入者が輸出者に商品代金を送金する際、契約書やインボイス番号を明記したMT103が利用されます。例として、日本の輸入業者が、中国のサプライヤーに部品代を支払うケースなどが挙げられます。
企業間取引(B2B送金)
多国籍企業が海外拠点へ資金移転を行う場合や、サプライヤーへの代金支払いで使用されることがあります。例としては、ヨーロッパ本社がアジア子会社へ運転資金を送金するなどといったケースがあります。
個人の国際送金
留学費用や仕送り、海外不動産購入などで利用されるケースがあります。例として親が海外留学中の子どもに生活費を送るにもMT103が利用されます。
サービス料金の支払い
国際的なコンサルティング、IT開発、ライセンス料など、サービス貿易の決済にも用いられます。例として、海外のフリーランス開発者へ報酬を支払うケースなどが該当します。
金融・証券関連
投資資金の送金や証券取引の決済で、個別に顧客指図を処理する際に使用されるケースがあります。
MT103とMT102の比較
以下は、MT103とMT102の違いを表にしたものです。
| 項目 | MT103 | MT102 |
|---|---|---|
| メッセージ種別 | 単一顧客送金(Single Customer Credit Transfer) | 複数顧客送金(Multiple Customer Credit Transfers) |
| 用途 | 1件の送金を処理 | 複数件の送金をまとめて一括処理 |
| 典型的な利用シーン | 国際貿易代金送金、個人の海外送金、大口取引 | 給与支払、補助金支給、複数仕入先への支払 |
| 処理単位 | 1メッセージ = 1送金 | 1メッセージ = 複数送金 |
| 追跡性 | 1件ごとにトレーサビリティが確保される(追跡容易) | 複数件をまとめるため、1件単位の追跡はやや不便 |
| エラー発生時 | その1件のみエラー処理 | 複数件が含まれるため、全体に影響する可能性あり |
| 主なユーザー | 企業の国際取引、銀行の顧客送金 | 大企業の人事部門、自治体、公共機関 |
| SWIFT gpi 対応 | 主役(gpiトラッキングで標準化) | 補助的(利用は限定的) |
MT103とMT102のポイント
- MT103 → 貿易決済・国際送金の標準フォーマット。契約書にも明記される。
- MT102 → 大量送金の効率化ツール。給与や公共料金などで便利。
MT103のフロー(送金人視点と銀行視点)

MT103の送金は、依頼人にとってはシンプルですが、銀行内部では多段階の処理が行われています。
ここでは 「送金人から見える流れ」 と 「銀行内部での流れ」 に分けて説明します。
① 送金人(顧客)から見た流れ
送金依頼
- 発信銀行の窓口やオンラインバンキングで、受取人の口座情報・送金額・通貨・契約番号などを入力。
- 手数料負担区分(OUR / BEN / SHA)を選択。
送金実行
- 銀行から「送金受付完了」の連絡を受ける。
- 依頼人視点では「送金完了」と思いがちだが、この時点では銀行間処理が始まったばかり。
着金確認
- 数時間~数営業日後、受取人から「着金した」と連絡を受ける。
- OURの場合は満額、BENやSHAでは手数料差し引きが発生することも。
② 銀行内部での流れ(発信銀行・中継銀行・受取銀行)
発信銀行
- 依頼人の口座残高確認、AML/CFTチェック(制裁リスト・マネロン対策)。
- 問題なければMT103メッセージを作成し、SWIFTネットワーク経由で送信。
中継銀行(必要な場合)
- 発信銀行と受取銀行が直接コルレス契約を持たない場合に経由。
- 手数料差し引きが発生することもあり、送金額が減る要因に。
受取銀行
- MT103を受信後、送金内容をシステムで照合。
- 名義・口座番号に不一致があれば保留。
- 問題なければ受益者口座に入金し、必要に応じて着金通知を発行。
MT103の主なメッセージフィールド例
次にあげるのは、MT103のメッセージフィールドです。各フィールドには、取引内容に応じた値が入ります。
| フィールド | 内容 |
|---|---|
| 20 | 送金取引番号 |
| 23B | 取引種類コード |
| 32A | 送金日・通貨・金額 |
| 50K | 依頼人(送金人) |
| 59 | 受取人(受益者) |
| 71A | 手数料負担区分(OUR / BEN / SHA) |
これらの項目により、送金の正確性と透明性が担保されます。
MT103の電文サンプル
{1:F01BANKJPJTAXXX1234567890}{2:O1031203050102BANKUS33XXXX12345678900501021203N}{3:{108:REF12345678}}
{4:
:20:TRX20250908001
:23B:CRED
:32A:250908USD10000,00
:50K:/1234567890
JOHN DOE
1-2-3 MINATO-KU
TOKYO JAPAN
:59:/9876543210
ACME TRADING LTD
456 HIGH STREET
LONDON GB
:70:INVOICE NO 2025-001
:71A:OUR
}
{5:{CHK:123ABC456XYZ}}
各フィールドの意味
- :20: 送金取引番号(依頼人または銀行が設定するユニーク番号)
- :23B: 取引種類コード(CRED=Credit Transfer)
- :32A: 送金日付・通貨・金額(ここでは 2025年9月8日、USD 10,000.00)
- :50K: 依頼人(送金人)情報(口座番号+氏名・住所)
- :59: 受取人(受益者)情報(口座番号+会社名・住所)
- :70: 送金目的(インボイス番号や契約番号など)
- :71A: 手数料負担区分(OUR=送金人負担)
- {CHK:} メッセージ整合性のチェックコード
MT103の実務上の注意点
- 時間管理:SWIFT電文が送信されても、各銀行のカットオフタイムを過ぎると着金は翌営業日になる。
- 手数料負担:OURの場合、受取額がそのまま満額になるが、BENやSHAだと差し引かれて入金される。
- 制裁チェック:送金途中で規制対象名義が検知されると、保留・凍結となり処理が止まる。
送金人と銀行の認識差
送金人はボタンを押したら「即送金完了」と思うところですが、実際はそうではなく、銀行側においてその後も「残高確認 → 制裁チェック → メッセージ送信 → コルレス経由 → 着金処理」と複数段階のプロセスがあります。
時間差の原因
銀行のカットオフタイムを過ぎた場合、翌営業日処理となります。加えて中継銀行を経由する場合は、さらに1~2営業日かかることもあります。
まとめると、送金人視点ではシンプルに「送金依頼→数日後に着金」という感覚になりますが、銀行視点でみると複数のチェックと承認を経て、国際的な金融ネットワークの中で処理されることになるため、所要プロセスが送金人視点よりも複雑になっています。
- 送金目的の明記:契約番号やインボイス番号を入れると、受取側での照合がスムーズ。
- 手数料負担区分:
- OUR(送金人負担)
- BEN(受取人負担)
- SHA(送受双方で分担)
- 締め時間の遵守:カットオフタイムを過ぎると送金が翌営業日になる場合がある。
- コンプライアンスチェック:制裁対象名義や取引は送金が保留または拒否される可能性がある。
MT103まとめ
MT103は、単一顧客送金を行う際に必須となるSWIFTメッセージです。貿易取引や国際送金の場面で最も頻繁に使われ、契約書にも登場する重要な要素です。送金の流れやフィールド内容、実務上の注意点を押さえておくことで、トラブルを避け円滑な決済につなげることができます。