信用状が拒絶されるケース

信用状が拒絶されるケース

信用状(LCやDLC)は「書類さえ揃えば銀行が支払を保証する」と言われる安全な決済手段です。

ところが、実務の現場では必ずしもそうとは限りません。「どの銀行が発行した信用状か」によって、受け手が受け付けないことがあります。

銀行の信用力で取引が停止

ある年、途上国の取引先から数十万ドル規模のLCを受け取ったことがありました。条件や金額は問題なく、こちらとしてはスムーズに進むはずで、取引の成立に向けて動いていました。ところが、相手方の発行銀行を確認した受け手の銀行は「このLCは受けられない」と回答。取引が停止することとなったのです。

理由は単純でした。その銀行自体に国際的な信用がなかったのです。
国際決済の経験も乏しく、格付けもされていない地方銀行。もし万が一、その銀行が資金を送れなくなれば信用状の保証は紙切れ同然。

銀行としては「政情も不安定で、相手銀行の保証が保証として成り立たない」と判断され、結局その取引は白紙に戻りました。

なぜ拒絶されるのか

受け手銀行がLCを拒否する典型的な理由は、大きく分けて次の3つです。

  • 政情不安
  • 銀行格付けが低い、または国際的認知度がない
  • コンプライアンスや規制上のリスク

政情不安

戦争・政変により、LCを受ける・振り出す銀行の国の金融インフラが機能しなくなるとどうなるのか見ていきましょう。

1. 銀行決済ネットワークの遮断

  • 戦争や政変で国際的な送金ネットワーク(例:SWIFT)への接続が遮断される
  • 国際制裁によって特定国の銀行がSWIFTから排除される(例:近年のロシア銀行)
  • 結果、LCがあっても送金が物理的にできない

2. 外貨準備の不足・凍結

  • 政変時に中央銀行が外貨準備を使えなくなる(資産凍結や制裁)
  • 発行銀行がLC決済用の外貨を調達できなくなる
  • いくら「払う」と書かれていても、ドルやユーロが手元にないため履行できない

3. 国内金融機関の機能停止

  • 戦闘・暴動で支店や本部が物理的に機能しない(停電・通信断・破壊)
  • 職員が出勤できず、決済オペレーションが不可能になる
  • LCの「書類確認」「承認」「送金指示」など日常業務が停止

4. 政府・規制当局の介入

  • 政変に伴い「外貨送金禁止」「資本規制」が急に導入される
  • 銀行がLCの支払いをしたくても、法律上できない状況になる
  • 特に新政権や軍事政権は、外貨流出を防ぐために制限をかけやすい

5. カントリーリスクの跳ね返り

  • 信用格付けが急落し、国際市場から取引停止を受ける
  • 相手国の銀行保証を、受け手側の銀行が「危険すぎる」と判断し拒絶
  • 実務では「この国発行のLCは引き受けない」という社内ルールが走る

戦争や政変が起きると、送金ネットワークの遮断や外貨不足、銀行機能の停止、政府規制などによって、信用状の支払保証は実質的に機能しなくなる。「保証が紙切れになる」典型例がカントリーリスクです。総じて、政情が不安である場合、その国の銀行からの保証は将来的に無効になり、損失を被るリスクを含んでいるわけです。

銀行格付けが低い、または国際的認知度がない

1. 資本力が不十分

  • 格付けが低い=資本金や自己資本比率が低いことを意味する場合が多い
  • 国際決済で求められる大口の支払(数百万〜数千万ドル規模)に耐えられない可能性
  • 万が一不渡りが出ても、保証を履行するだけの資金的裏付けが不足

2. 国際決済ネットワークへの接続が弱い

  • 国際的な認知度が低い地方銀行や新興銀行は、主要銀行とのコルレス(Correspondent Banking)契約が限られる
  • その結果、信用状を送付しても仲介銀行が少なく、実際に資金を動かせない/遅延するリスクがある

3. 信用格付け機関からの評価

  • S&P、Moody’s、Fitch などの格付けが「投資不適格」水準だと、輸出者や受益銀行が引き受けを拒絶
  • 格付けが無い場合も同様に「透明性がない=リスクが高い」と判断される

4. 巨額取引を保証する“信頼の土台”がない

  • 大規模なL/Cを発行しても「この銀行にそんな保証を出せる体力があるのか?」と受け手が疑問視
  • 特に原油・鉱物・機械設備など高額商材の取引では、銀行格付けが信用状そのものの信用力に直結

5. 実務上の対応

  • 格付けが低い/無名銀行のLCは、多くの受益者銀行が「確認銀行付き(Confirming Bank)」を要求
  • 信用力の高い銀行が保証を追加することで、初めて受け手が安心して取引できる

政情が不安であるケースよりも対応策がありはしますが、それでも対策なしでは拒絶されるケースがほとんどです。銀行の格付けや国際的な知名度が低い場合、資本力不足や国際決済ネットワークの脆弱さから、信用状の保証が現実には機能しないことがある。輸出者はこうしたリスクを避けるため、確認銀行の付与を求めるのが一般的です。

コンプライアンスや規制上のリスク

1. マネーロンダリング対策の不備(AML/CFT)

  • 有名銀行であっても、AML(Anti-Money Laundering)やCFT(Counter Financing of Terrorism)の管理体制が甘ければ、国際的に危険視される
  • 「取引銀行の選定基準」に引っかかり、信用状そのものが無効扱いになる場合もある

2. 制裁リスク・国際的なブラックリスト

  • 国連制裁、OFAC(米国財務省外国資産管理局)、EU制裁リストに触れる銀行は、たとえ格付けが高くても国際金融システムから排除されやすい
  • その銀行発行のLCは、主要銀行にとって「取引不可」とされる

3. 社会的信用の毀損リスク

  • 犯罪資金やテロ資金の流れに関与したと見られる銀行と、大手金融機関が決済を行えば、世論や規制当局からの批判に直結
  • 結果として、「安全のためにそもそも受け入れない」という判断がされる

4. 実務上の影響

  • 発行銀行が有名大手でも、過去にコンプライアンス問題を起こしていると「この銀行発行のLCは確認銀行が付かない」ケースがある
  • とくに欧米・日本の大手銀行は reputational risk(風評リスク)を極端に嫌うため、“安全側”に倒して拒絶する傾向が強い

5. 典型的な事例

  • 世界的に有名な大手銀行であっても、過去にAML違反で巨額の罰金を科された例は多い
  • こうした銀行は一時的に国際的な信用を失い、その間に発行されたLCは「格付けではなくコンプライアンス上の理由で」拒否されることがある

銀行の格付けや規模に関係なく、マネーロンダリング対策や制裁規制への遵守姿勢が不十分であれば、信用状は受け手に拒絶される。大手金融機関ほど「reputational risk」を避けるため、この判断はよりシビアになるわけです。

拒絶後にできる対応

前述した取引で対策した行動は、「確認銀行(Confirming Bank)の利用」でした。輸出者側に交渉し、発行銀行だけでなくその国の大手銀行にも保証を付けてもらう形に変更を依頼しました。つまり、発行銀行が支払い不能に陥っても、確認銀行が代わりに支払うという二重の保証を立てることで、受け手銀行は許可する運びになったのです。

この手数料は決して安くありませんでしたが、相手側も「それで安心して取引できるのであれば」と納得。結果的に、別の形で契約をまとめ直すことができました。

確認銀行が利用できないケース

実務上、確認銀行が利用できない、または利用したくないケースが出てくることもあります。

1. 手数料負担が大きい

  • 確認銀行(Confirming Bank)を付けると、取引額に応じて数%の手数料が発生する
  • 輸出者にとっては「安全」は得られるが、利益率が圧縮される
  • 特に利益幅の薄い商品(原材料、コモディティ取引など)では致命的

2. 相手から銀行変更を求められる

  • 確認銀行を付けるコストや手間を嫌い、相手方が「発行銀行を変えてほしい」と要請するケースがある
  • 具体例:無名の地方銀行発行のLC → HSBC・Citi・三菱UFJなど国際的大手銀行へ変更
  • この場合、輸出者は発行銀行の選定から交渉に巻き込まれることになる

3. 確認銀行自体がリスクを引き受けない

  • 発行銀行や発行国が高リスクすぎる場合、どんなに手数料を払っても確認銀行が保証を付けない
  • 例:
    • 政治的に不安定な国
    • 制裁リストに入っている銀行
    • AML体制に問題がある銀行

4. 取引スピードが求められる場合

  • 確認銀行を通すと承認や手続きが追加され、決済スピードが落ちる
  • 特に納期の短い商材や即納案件では、時間コストが致命的になり、確認銀行を避けることがある

5. 関係構築ができている取引先

  • 長年の取引実績がある輸入者との間では「確認銀行なしでも支払う」と合意する場合がある
  • 取引額が大きくない、あるいは過去に支払い遅延の問題がなかったケースでは、あえて確認銀行を省略してコスト削減する選択肢が取られる

実務でよくある展開として

  • 「確認銀行を付けると手数料で利益が削られる → だったら銀行を変えてほしい」
  • 無名銀行 → 国際的大手(HSBC、Citi、BNP、三菱UFJなど)へ変更依頼
  • 結果:輸入者側が「信用できる銀行を指定してくれ」と言う → 銀行の選定自体が交渉条件になる

確認銀行は信用状の安全性を高める有効な手段ですが、手数料負担や時間コストのため、利用できない、または利用を避けるケースもでてきます。その際には、発行銀行自体を国際的に信用力のある大手に変更するよう交渉されることが多くなってくるのです。

信用状拒絶のまとめ

  • 信用状は「どの銀行が発行するか」で、受け手に拒絶される場合がある
  • 政情不安や銀行の信用力不足は、国際取引の大きなリスク
  • 対応策として 確認銀行付与(Confirming LC) が一般的で、安心感を与える交渉材料になる
  • リスクを考慮し、銀行を変更するよう依頼する(される)こともある
2025年7月16日 | 2025年8月24日