紛争や戦争、経済制裁が続く国・地域との取引は、原則として避ける判断が合理的です。 しかし、業界構造や取引関係によっては、リスクを理解したうえで取引を検討せざるを得ない場面もあります。 本記事では、そうしたケースにおいて、新規取引で最低限押さえておくべき実務対策をチェックリスト形式で整理します。
前提:通常取引と同じ設計では通用しない
紛争・制裁リスクがある取引では、「これまで問題なかった方法」をそのまま適用すること自体がリスクになります。 契約、決済、物流、保険のすべてにおいて、トラブルが起きる前提で設計する必要があります。 以下のチェックリストは、その最低限の考え方をまとめたものです。
チェック1:決済条件(L/C・前受比率)の考え方
- 可能であれば、取消不能信用状(Irrevocable L/C)を使用する
- 制裁リスクがある場合は、確認銀行付きL/Cを検討する
- T/T取引では、前受比率を通常より大幅に高める
- 分割払いの場合は、出荷前・書類確定後など段階を細かく区切る
- 送金経路(中継銀行含む)を事前に確認する
チェック2:契約書に必ず盛り込むべき条項
- 不可抗力条項に、戦争・内乱・政府措置・港湾閉鎖を明記する
- 制裁・輸出規制に該当した場合の即時停止・解除条項
- 追加書類や情報提供への協力義務
- 紛争解決方法(裁判管轄・仲裁)の現実性を確認する
- 条件変更時の協議・解除プロセスを明確にする
チェック3:銀行対応・資金管理のポイント
- 取引開始前に、取引銀行へ国・取引内容を共有する
- 銀行からの照会に即答できる資料を準備しておく
- 第三国経由の決済になっていないかを確認する
- 口座凍結リスクを想定し、資金を一極集中させない
チェック4:物流・保険の確認順
- 対象国・地域向けに実際に運航している船社・航空会社を確認する
- 港湾閉鎖や航路変更が起きた場合の代替ルートを想定する
- 貨物保険に戦争危険担保が含まれているかを確認する
- 免責事項を約款レベルで確認する
- 遅延・保管料・放棄時の費用負担を把握する
チェック5:社内判断を支える運用ルール
- 情勢悪化時に取引を止める判断基準を事前に決めておく
- 現場判断に任せず、承認フローを明確にする
- 定期的に国・地域リスクを見直す
- 「今回は例外」という判断を積み重ねない
それでも迷う場合の考え方
ここまで対策を講じても、「本当にやるべきか迷う」取引は残ります。 その場合は、期待利益ではなく、最悪の損失を基準に判断することが重要です。 最悪のケースを受け入れられないのであれば、その取引は見送るべきです。
まとめ

紛争・制裁下での取引は、対策を講じれば安全になるものではありません。 あくまで「リスクを理解したうえで、限定的に管理する」ものです。 本チェックリストは、取引を推奨するためではなく、自社を守るための最低限の判断材料です。 避ける、条件を厳しくする、取引しないという選択肢も含め、冷静な意思決定を行うことが、長期的な事業継続につながります。
参考外部リンク
- 外務省 海外安全ホームページ(危険情報一覧)
紛争・治安悪化地域を国別・地域別に確認できる、日本の公式情報です。 - 米国財務省 OFAC Sanctions Programs and Country Information
制裁対象国・個人・企業・取引分野を確認するための一次情報源です。 - EU Sanctions Map
EUによる制裁内容や対象分野を地図ベースで把握できます。 - 日本貿易振興機構(JETRO) 海外ビジネス情報
各国の政治・経済情勢、貿易・投資規制を実務向けに解説しています。 - 財務省 国際金融・外国為替制度
外貨規制や国際金融の枠組みを理解するための公的資料です。