年末年始は、輸出入ビジネスにとって毎年必ず意識すべき重要な時期です。多くの企業はこの時期に繁忙期を迎え、メーカー、商社、小売、フォワーダー、倉庫事業者など、ほぼすべての物流関係者が通常以上のタスクを抱えます。
加えて、世界各国の祝日による税関・金融機関の休業も重なるため、通関処理や輸送スケジュールが大幅に遅れるケースが珍しくありません。この記事では、なぜ年末年始に輸出入通関が遅延しやすいのか、その要因を体系的に整理したうえで、企業側が事前に取るべき対策や、実際に起こりうるリードタイムのモデルケースを紹介します。
1 年末年始に通関が遅れやすい主な理由
1-1 各国税関の休暇・人員減少
年末年始に通関遅延が発生する最大の理由は、税関(Customs)の稼働率低下です。
特に欧米はクリスマス前後から長期休暇に入り、人員が大幅に減少します。審査担当者が少なくなるため、以下のような現象が発生しやすくなります。
・書類審査待ちのキューが増える
・貨物検査のスケジューリングが遅延する
・休日明けに申告が集中し、さらに滞留が発生する
これらは輸入だけでなく輸出側にも影響を与え、最終的に国際輸送全体のリードタイムを押し上げます。
1-2 貨物量の急増による処理能力の限界
年末は、以下の需要が重なることで貨物量が急増します。
・小売の年末商戦に向けた在庫補充
・メーカーの年度末出荷
・オンライン通販のピーク
・企業の「年内納入」希望による駆け込み出荷
特に航空貨物は顕著で、12月のスペースは例年逼迫します。スペースが埋まると、貨物は翌便へ回され、これだけで1〜2日遅れることも珍しくありません。海上貨物では、コンテナ不足や港湾混雑が発生し、荷役待ちが長時間続くケースもあります。
1-3 書類不備が遅延に直結しやすい
繁忙期は書類作成担当者やフォワーダーも業務が多く、書類不備が出やすくなります。
・インボイス記載の整合性
・HSコードの齟齬
・数量や重量の差異
・原産地証明書の不備
・L/C条件との不一致
このような細かな不備でも、税関が混雑している時期には致命的な遅延につながります。
1-4 港湾・空港のオペレーション混雑
港湾・空港は次の理由で年末に混雑が発生します。
・荷役スタッフの不足
・ゲートオープン時間の短縮
・冬季の悪天候(欠航・遅延)
・フォークリフトや搬送ラインの処理能力不足
また、クリスマス明けや年始の仕事始めは、数日分の貨物が一気に動くため現場の作業量が飽和し、荷物の取り出しや搬入が遅れる傾向があります。
1-5 銀行・金融機関の休業による決済遅延
輸出入には決済が絡むことが多く、特に以下のケースでは年末年始が影響します。
・L/C(信用状)の書類呈示
・T/T送金の着金確認
・B/Lリリースに必要な支払い
銀行のカットオフ日を過ぎると、着金確認が翌年扱いとなる場合があり、貨物の引き取りに遅れが生じます。
2 地域別に見た遅延の傾向
欧米(アメリカ・EU)
クリスマス休暇〜新年まで実質的に人員が不足し、税関審査が大きく遅れます。航空貨物の遅延も多く、スケジュール変更が頻発します。
アジア(中国・台湾・香港)
西暦上の年末年始よりは影響が小さいものの、部門ごとに休暇入りするケースがあります。また、欧米向け輸送の遅延が波及してスケジュールに影響する場合があります。
東南アジア
祝日が国ごとに異なり、連休が断続的に発生します。港湾の混雑や書類処理停滞が起こりやすい地域です。
中東
年末年始そのものの影響は限定的ですが、欧州経由の輸送に依存している場合、欧州側の遅延がそのまま波及します。
3 年末のリードタイム(モデルケース)
下記は、実務上頻繁に見られる年末の遅延例をモデル化したものです。
【モデルケースA:航空輸入(通常5日 → 年末10〜14日)】
1日目 海外メーカー出荷
2日目 輸送手配完了
3日目 航空スペース満杯で翌便へ回される
4〜5日目 現地空港の混雑で搬入遅延
6日目 フライト
7〜8日目 日本到着・混雑で搬出待ち
9〜11日目 税関審査待ち(人員不足)
12〜14日目 配送完了
【モデルケースB:海上輸出(通常20日 → 年末30〜35日)】
・コンテナ不足でCY搬入日が後ろ倒し
・船のスケジュール変更(ロールオーバー)
・海外港湾の混雑で降ろし作業が遅延
・輸入国税関の休暇によりクリアランス停滞
4 企業が取るべき実務的な対策
4-1 前倒し出荷の徹底
11月中旬〜12月初旬に出荷を終えておくことで、税関混雑のピークを避けられます。
4-2 航空スペース・船腹の早期確保
特に航空貨物はピークシーズン料金(PSS)が導入されやすいため、早期予約が効果的です。
4-3 書類不備の防止と二重チェック
年末は書類ミスが遅延の最大要因となるため、以下を厳守します。
・インボイスとパッキングリストの整合性
・HSコードの確認
・原産地証明書の取得スケジュール管理
・L/C条件の事前照合
4-4 銀行のカットオフ日の確認
・T/T送金
・L/C書類呈示
・B/Lオリジナルの受領
これらは締め切りを過ぎると翌年扱いになるため注意が必要です。
4-5 フォワーダーとの事前共有
年末年始の運航状況、混雑ポイント、港湾スケジュールの変更などを事前に確認しておくことで、大幅な遅延リスクを回避できます。
5 まとめ

年末年始の輸出入通関は、税関休暇、貨物集中、港湾混雑、決済停止といった複数の要因が重なることで大幅に遅延しやすい状況が生まれます。企業側ができる対策は多くあり、前倒しの手配、書類管理の徹底、フォワーダーとの早期連携が特に効果的です。
毎年発生する季節要因であるため、年末スケジュールを見据えた計画的な物流設計こそが安定した輸出入業務のための鍵と言えます。