海外企業と取引を行う場合、米ドル建ての請求書を受け取る機会は決して珍しくありません。輸入取引、フリーランス外注、システム開発、広告費など、業種に関係なく国際取引が増える中で、USD請求書の支払い方法を正確に理解しておくことは、ビジネスを円滑に進める上で欠かせない業務となっています。とくに、銀行を利用したSWIFT海外送金は、企業間取引では事実上の標準となっており、請求書の記載内容や送金手順の理解がそのままトラブル回避につながります。この記事では、USD請求書を支払う際に知っておくべき情報を、実務の観点からわかりやすくまとめています。
USD建て請求書とは何か
USD建て請求書とは、支払通貨が米ドルで指定されている請求書のことです。国際取引では、取引相手が所在する国の通貨ではなく、世界的な決済通貨である米ドルが使用されることが多く、特にアジア圏や欧州との取引でもUSD請求書が標準的に発行されます。請求書には、金額以外にも受取人名義、受取銀行情報、口座番号、請求書番号など、送金時に必要となる重要情報が含まれており、これらが正確でなければ着金遅延や送金却下につながります。輸入・外注費・ソフトウェア契約など幅広い業務で発生するため、企業担当者だけでなく、中小企業経営者やフリーランスでも理解しておきたい領域です。
USD請求書の支払い手段
USD請求書を支払う方法はいくつかありますが、日本の企業実務で最も多いのは銀行の海外送金です。ここでは代表的な三つの方法を紹介します。
銀行の海外送金(SWIFT)は、最も信頼性が高く、ほぼすべての企業取引で利用されます。送金人の銀行から中継銀行を経由し、受取銀行に着金する仕組みです。請求書側の希望が「銀行送金のみ」であるケースも多いため、ビジネス利用では基本的にこの方法が選択されます。
WiseやRevolutといった海外送金サービスは、日本円からUSDへの換算手数料が安く、個人間や小規模取引で使われることもあります。ただし、企業側が受取を拒否するケースがあること、国によって商用取引に使えない場合があることから、請求書決済では利用の可否を事前に確認する必要があります。
クレジットカードやオンライン決済は、クラウドサービスや少額のSaaS契約で利用できますが、請求書ベースの輸入取引では適用範囲が狭く、通常の企業間請求書では使われません。実務ではあくまで補助的な方法と理解すると良いでしょう。
USD請求書に記載される情報とチェック項目
請求書に記載される項目の中には、海外送金に不可欠な情報が含まれています。特に以下の内容は必ず確認しておく必要があります。
受取人名義(Beneficiary Name)は、銀行口座の正式名称と完全に一致している必要があります。1文字違うだけでも送金が止まる可能性があります。受取銀行(Bank Name)とSWIFTコード(BIC)は、資金を目的地へ正しく届けるために最重要の情報です。とくにSWIFTコードを誤ると、送金の追跡や返金に時間がかかり、相手企業にも迷惑がかかってしまいます。口座番号(Account No.)はIBANがない国も多いため、請求書の形式に従って正確に入力します。中継銀行(Intermediary Bank)が指定されている場合は、その情報を必ず送金時に入力しないと資金が正しく経由しません。請求書番号やReference欄は相手側で入金照合に使われるため、入力漏れがあると確認に時間がかかることがあります。
| チェック項目 | 請求書上の表記例 | 何を確認するか(実務ポイント) | ミスした場合の影響 |
|---|---|---|---|
| 請求書番号 | Invoice No. / Invoice Number | 送金メモや照合に使う番号。送金時のReferenceに転記する。 | 相手側で入金照合できず、確認に時間がかかる |
| 支払期限 | Due Date / Payment Due | 着金まで2〜5営業日かかる前提で、余裕を持って送金日を決める。 | 期限超過による信用低下、遅延ペナルティの可能性 |
| 請求金額 | Amount / Total Amount | USD建ての金額か、税・手数料込みかを確認。 | 送金不足・過剰送金、再送金対応が必要になる |
| 通貨 | Currency: USD / US Dollar | 送金通貨がUSD指定であることを再確認。 | JPY送金など誤通貨送金で組戻し・再送金 |
| 受取人名義 | Beneficiary Name / Payee | 銀行口座の正式名義と完全一致しているか(綴り含む)。 | 中継銀行や受取銀行で照合止まり、着金遅延や返金 |
| 受取人住所 | Beneficiary Address | 制裁・AML確認で使われる場合あり。請求書と一致させる。 | 審査追加で遅延、場合によっては送金保留 |
| 受取銀行名 | Bank Name / Beneficiary Bank | 受取銀行の正式名称。支店名がある場合も確認。 | 誤銀行扱いで遅延または返金 |
| 受取銀行住所 | Bank Address | 銀行指定が厳格な国・銀行で必要。請求書の記載どおり入力。 | 受取銀行側で確認が必要になり遅延 |
| SWIFTコード(BIC) | SWIFT / BIC | 最重要。8桁または11桁。請求書どおりに入力。 | 誤送金・経路不明・追跡困難、返金に時間 |
| 支店コード(任意) | Branch Code | 指定がある場合のみ入力。無いのに推測入力しない。 | 入力不整合で銀行照会が発生 |
| 口座番号 | Account No. / A/C No. | IBAN不要国では口座番号のみ。ハイフンや桁数も含め正確に。 | 着金不可、組戻し・再送金 |
| IBAN(対象国のみ) | IBAN | 欧州などIBAN必須国は必ず全桁入力。 | 受取銀行で拒否、送金差戻し |
| ABA / Routing No.(米国向け) | ABA / Routing Number | 米国銀行宛てで指定がある場合に必須。 | 米国内で処理不能、遅延 |
| 中継銀行情報(必要時) | Intermediary Bank / Correspondent Bank | 請求書に指定がある場合は必ず入力。 | 中継で迷子になり遅延、返金の可能性 |
| 送金参照(メモ) | Reference / Remittance Info | 請求書番号や契約番号など、相手の照合に必要な情報。 | 入金確認が遅れ、取引先から照会される |
| 送金目的 | Purpose of Payment | 銀行フォームで入力。請求内容を端的に一致させる。 | AML審査で保留、追加書類要求 |
USD請求書の支払い手順(SWIFT実務フロー)
一般的な銀行からの海外送金は、以下の流れで進みます。ビジネス上のトラブルを避けるためにも、事前の準備が重要です。
ステップ1:請求書情報の確認
請求書に記載されている受取人名義、銀行情報、SWIFTコード、請求金額などを細かく確認します。綴りの誤りや情報の欠落がある場合は、必ず相手に確認を取ることが大切です。また、支払期限が設定されている場合は、海外送金の着金までに数日かかることを踏まえて余裕を持って手続きします。
ステップ2:銀行で海外送金手続きを開始
銀行の窓口やオンラインバンキングから送金手続きに進みます。取引内容によっては、銀行から請求書の提出を求められます。輸入関連や業務委託費などの送金目的(Purpose of Payment)を明記する必要があり、曖昧な記載があると審査に時間がかかる場合があります。
ステップ3:手数料負担区分の選択
海外送金にはOUR、SHA、BENという手数料区分があります。USD請求書では、受取側が満額の着金を求めるため、OUR(送金人負担)が指定されているケースが非常に多いです。請求書に「Full amount required」「All bank charges borne by sender」などと記載されている場合は、OURを選ぶ必要があります。
送金手数料区分(OUR / SHA / BEN)の違いと実務上の選び方
SWIFT海外送金では、送金手数料を誰が負担するかを「OUR / SHA / BEN」の3区分から選びます。ここを間違えると、相手の受取額が不足して再送金や再請求の原因になりやすいため、USD請求書の指示に沿って判断することが重要です。
OURは「送金人がすべて負担する方式」です。送金銀行手数料だけでなく、中継銀行や受取銀行で発生する手数料も送金人側が負担する前提のため、相手は請求書通りの満額を受け取れます。請求書に「All bank charges borne by sender」や「Full amount required」などの記載がある場合、基本的にOURで送金します。
SHAは「送金人と受取人が分担する方式」です。送金人は送金銀行側の手数料を負担し、中継銀行や受取銀行で発生する分は受取人側で差し引かれることがあります。このため、受取額が請求金額より目減りする可能性があり、請求書に特別な指定がない場合や、相手が分担合意している場合に選択します。
BENは「受取人がすべて負担する方式」です。送金に関わる全手数料が受取側控除となるため、相手の受取額はさらに減る可能性があります。取引慣行としてはあまり一般的ではなく、相手がBENを明示している場合にのみ選ぶのが安全です。
実務では、請求書や契約書に手数料負担区分が書かれていればそれに従い、書かれていない場合は「満額着金が必要か」を相手に確認して判断します。USD請求書の企業取引では、相手が満額を求めるケースが多いため、結果としてOUR指定が最も多くなります。
ステップ4:中継銀行での経由処理
米国銀行の場合は中継銀行を経由することが一般的です。請求書にIntermediate Bankが記載されていれば必ず入力します。記載がない場合でも、銀行側で自動選択されることがあります。ここで情報に不一致があると、照合のために送金がストップし、数日〜1週間程度の遅延が生じることがあります。
ステップ5:受取銀行での着金処理
最終的に受取側のUSD口座に入金されます。企業側では請求書番号やReference情報をもとに入金確認を行います。この段階で手数料区分の誤りがあると、受取金額が予定より少なくなることがあり、再請求や追加送金の原因となります。
USD請求書の支払いで起こりがちなトラブル
海外送金には独特のトラブルが付きものです。その多くは事前の確認で防げるものです。
着金遅延は最も多いトラブルで、中継銀行での審査や受取人名義の不一致によって発生します。請求書の記載と送金情報が一致しているかを丁寧に確認すれば、ほとんど回避できます。受取金額が不足している場合は、SHAやBENを選択したことによる控除であることが多く、請求書の指定に従ってOURを選ぶことで防止できます。着金拒否は、送金目的が曖昧であったり、制裁関連で引っかかったりすることで発生します。特に米国関連の取引では慎重な審査が行われるため、正確な説明が必要です。
USD請求書の支払いをスムーズに行うために
USD請求書を安心して支払うためには、以下の点を押さえるとスムーズです。
請求書の銀行情報を正確に入力することが第一で、特にSWIFTコードと受取人名義は慎重に確認します。手数料区分は請求書側の指示に従い、相手が満額の着金を求めている場合は必ずOURを選択します。海外送金には数営業日かかるため、締め日や納品日がある取引では、スケジュールを逆算して送金するのが安全です。契約書で支払条件が定められている場合は、請求書と併せて内容を再確認し、支払い遅延が発生しないように管理すると、取引先からの信頼にもつながります。
まとめ

USD建て請求書の支払いは、国際取引では欠かせない業務です。銀行を利用したSWIFT海外送金が標準となるため、請求書の項目や送金手順を理解することがトラブル防止に直結します。受取銀行情報の確認、OUR指定、送金目的の明記など、基本的なポイントを押さえておくだけでも、着金遅延や金額差異の多くは避けられます。輸入取引、外注契約、サービス利用など、ビジネスの規模に関係なく役立つ知識なので、日常業務の中で活用してみてください。