貿易決済で使われ始めたUSDT・USDCの実例とリスク|ステーブルコイン実務の現場【2025年版】

貿易決済で使われ始めたUSDT・USDCの実例とリスク|ステーブルコイン実務の現場【2025年版】

はじめに|ステーブルコインが貿易決済の現場に入り始めた

2025年現在、国際貿易の一部では、USDT(テザー)やUSDC(USDコイン)といったステーブルコインが決済手段として利用され始めています。従来の銀行送金(SWIFT)に比べて、送金スピードが圧倒的に速く、手数料が低いことから、企業や商社、仲介業者がテスト的に導入を進めています。

特に、新興国・暗号資産に寛容な地域では、ドル建てのステーブルコインが「デジタル米ドル」として認識されており、取引通貨としての存在感が増しています。

USDT・USDCの基本構造と違い

どちらも「米ドルと等価」に設計されたステーブルコインですが、その発行体や信頼性には違いがあります。

項目USDT(TetherUSDC(Circle社
発行主体Tether Limited(香港)Circle Internet Financial(米国)
担保構成短期国債・コマーシャルペーパーなど米国国債・現金等による完全裏付け
透明性四半期ごとの準備報告書(監査なし)毎月の監査済みレポートを公開
主な利用ネットワークTron, Ethereum, BSC, Solana 等Ethereum, Polygon, Solana, Base 等
規制適合性限定的(オフショア)高い(米国準拠)

実務上は、USDTが取引量では圧倒的に多い一方、信頼性・コンプライアンスの観点ではUSDCが優位とされています。

実際の貿易決済での活用例

① 東南アジア:一次産品取引におけるUSDT決済

マレーシア・インドネシア・ベトナムなどでは、輸出業者がUSDTを利用して商品代金を受け取るケースが増えています。特に、コーヒー豆・木材・天然ゴムなどの中小規模取引で、従来の国際送金にかかる時間やコストを削減する目的で活用されています。

支払いはTronネットワーク上のUSDT(TRC-20)で行われ、送金から着金まで30秒〜1分。従来のSWIFT送金では2〜3営業日かかっていた処理が、実質リアルタイム化しています。

② 中東・アフリカ:USDCによるB2B決済実験

ドバイやケニアでは、米国Circle社のUSDCを利用したB2B貿易決済が試験的に実施されています。主にテクノロジー製品・工業部品・医療機器などの輸入取引で、ドル口座を持たない企業の代替決済手段として注目されています。

現地銀行のインフラ制約を回避できるため、アフリカ諸国の新興企業がUSDCを好んで利用する傾向も見られます。

③ 南米:輸出代金の一部をステーブルコインで受領

アルゼンチン・ブラジルでは、為替制限やインフレ率の影響から、輸出企業が代金の一部をUSDT・USDCで受け取る事例が増加。現地通貨の価値下落を避けるため、ステーブルコインを「デジタル外貨」として活用する流れです。

貿易決済でのメリット

  • 送金スピード: 数分で着金、タイムゾーンの影響を受けない。
  • 低コスト: 1回あたり数十円〜数百円で完結。
  • 為替リスク回避: 米ドル連動のため、現地通貨下落リスクを抑制。
  • 金融制裁・制約地域での代替手段: 銀行制約のある国でも利用可能。

特に、ドル送金が困難な地域や中小規模のB2B取引で、ステーブルコインは「実務的な送金ツール」として存在感を高めています。

一方で浮上するリスクと課題

便利さの裏には、以下のようなリスクが存在します。

  • 価格乖離リスク: 発行体破綻・流動性不足時に1USDT≠1USDとなる可能性。
  • 法的・規制リスク: 各国での資金移動・送金免許の要否が異なる。
  • AML/KYCの不備: 不正送金・マネーロンダリングへの利用懸念。
  • 換金リスク: 現地で法定通貨に戻せない場合、実務で資金滞留する。
  • 会計・税務処理の曖昧さ: 評価益・為替差損益の扱いが未確立。

特に日本企業の場合、海外子会社・仕入先がステーブルコインで代金を要求するケースも増えつつあり、コンプライアンス上の対応が求められています。

金融庁・各国の対応動向

日本では、2023年施行の改正資金決済法でステーブルコインを「電子決済手段」として位置づけましたが、企業が海外との貿易決済に直接使用することは依然として慎重に扱われています。一方、UAE・シンガポール・香港などはライセンス制を整備しつつ実用フェーズに移行しています。

国際的にも、IMFやFATFが「規制されたステーブルコイン決済フレームワーク」の整備を進めており、2026年以降、国際貿易での正式採用も見込まれます。

まとめ|実用化の一方で求められる「信頼性と監査性」

USDTやUSDCは、すでに国際貿易の現場で活用が始まっていますが、実用と同時にリスクマネジメントも必要です。特に、信頼性・監査性・規制遵守の面では、発行体・企業双方に新たな責任が求められています。

貿易決済におけるステーブルコイン活用は、「スピードと自由」か「安全と規制順守」かのバランスが鍵です。今後の国際ルール整備次第では、ステーブルコインが正式な貿易決済通貨として認められる可能性も高まっています。

2025年9月23日 | 2025年10月30日