SWIFTメッセージシリーズにおける「x95」「x96」は、すべてのカテゴリ(MT1xx〜MT9xx)に共通して使用される、問い合わせ(Query)と回答(Answer) 用のメッセージです。これらは、送金・信用状・証券・現金管理など、あらゆる国際金融取引の中で、不明点や訂正依頼、確認要求を安全かつ迅速に伝えるための通信手段として機能します。
MTx95および、MTx96の概要
MTx95およびMTx96シリーズは「定型メッセージの隙間を埋める柔軟な連絡手段」として、国際取引の現場で日常的に用いられています。正式な通信ルートを通じてやり取りされるため、メールや電話に比べて信頼性・追跡性が高く、法的エビデンスとしても有効です。
区分 | 形式 | 主な用途 |
---|---|---|
x95 | Query Message | 情報の照会・確認依頼・訂正要求 |
x96 | Answer Message | 照会に対する回答・修正通知 |
実際の使用例(MTx95・MTx96)
銀行間の送金トレーサー
例:受取銀行が着金を確認できない場合、発信銀行が「MT195」で送金ステータスの照会を行う。受取銀行は「MT196」で「資金は2024年10月5日に入金済」と回答。
信用状(L/C)の条件確認
例:輸出者側銀行が、通知されたL/Cに不明瞭な条項がある場合、発行銀行へ「MT795」で照会。発行銀行が「MT796」で条件内容の補足・修正版を回答。
現金管理における口座照会
例:企業顧客が特定の取引残高を確認するため、取引銀行へ「MT995」で照会。銀行側が「MT996」で当該日残高や取引履歴を回答。
MTx95:Query Message の役割と構造
MTx95の目的
MTx95は、特定のトランザクション(例:MT103、MT700など)に関連して、内容の確認や情報補足を求める際に送信されるメッセージです。定型化された取引の「質問票」に相当し、SWIFTネットワーク内で安全にやり取りされます。
主な利用ケース
MT195のサンプル
{1:F01ABCJPJTAXXX1234567890}{2:I195XYZBDEFFXXXXN}{4:
:20:TRX-20241005-089
:21:MT103-20241002
:79:We have not received confirmation of funds for MT103 dated 02 Oct 2024.
Please confirm whether the payment has been credited to the beneficiary account.
-}
日本語に訳したもの
当行は、2024年10月2日付のMT103送金について資金着金の確認が取れておりません。
受取人勘定への入金が完了しているかご確認願います。
このような照会は、実務では「ペンディング送金」や「コルレス経由の未着金確認」で頻繁に用いられます。送金経路が複数銀行にまたがる場合、MT195を通じてトレーサー(追跡照会)を送ることで、どの段階で資金が停滞しているかを特定できます。
また、MT195は正式なSWIFT通信であるため、照会記録として証跡管理が可能で、将来的なコンプライアンス調査にも有効です。
基本構成例(MT195を例に)
フィールド番号 | 項目名 | 内容 | 記入例 |
---|---|---|---|
:20: | Transaction Reference Number | 取引参照番号 | 123456789 |
:21: | Related Reference | 関連メッセージの参照番号 | MT103-20241015 |
:79: | Narrative | 照会内容(自由記述) | Please confirm the beneficiary name. |
MTx96:Answer Message の役割と構造
MTx96の目的
x96は、x95メッセージで受けた照会内容に対して回答・説明・修正内容を返すためのメッセージです。
実務的には「問い合わせへの正式な返信書簡」としての性質を持ち、SWIFTネットワーク上でやり取りされることで、照会と回答の記録を安全に保持できます。
主な利用ケース
- 受取人情報や金額誤記の訂正回答
- 送金遅延・支払条件変更の通知
- 信用状修正の可否回答
- 顧客照会(MT995)に対する銀行回答(MT996)
MT196のサンプル
{1:F01XYZBDEFFXXXX1234567890}{2:I196ABCJPJTAXXXN}{4:
:20:TRX-20241005-089
:21:MT195-20241005
:79:The payment related to MT103 dated 02 Oct 2024
has been credited to the beneficiary account on 05 Oct 2024.
Please note that the value date is maintained as 03 Oct 2024.
-}
日本語に訳したもの
2024年10月2日付のMT103送金に関し、資金は2024年10月5日に受取人勘定へ入金済みです。
なお、起算日は当初の10月3日として処理されています。
このような回答は、MT195の照会に対してペアで発行されます。特に海外送金では、受取銀行が「実際の入金日」や「為替レート適用日(Value Date)」を明示して返信することで、送金元銀行が処理状況を正確に把握できます。
また、照会・回答の往復が正式なSWIFT通信として記録されるため、後日トラブル(未着金・遅延・為替差損など)が発生した際にも、電子的証拠(communication trail)として利用できます。
基本構成例(MT196を例に)
フィールド番号 | 項目名 | 内容 | 記入例 |
---|---|---|---|
:20: | Transaction Reference Number | 照会元の取引参照番号 | 123456789 |
:21: | Related Reference | 照会メッセージの参照番号 | MT195-20241015 |
:79: | Narrative | 回答内容 | The beneficiary details are correct. |
MTx95とMTx96の対応関係
以下の表のとおり x95/x96ペアは、カテゴリ横断的な「質問と回答」メカニズムであり、定型SWIFT電文を補完する重要な通信手段として位置づけられています。
照会メッセージ | 対応する回答メッセージ | 主な目的 | 実務例 |
---|---|---|---|
MT195 | MT196 | 支払関連の照会と回答 | 着金確認・誤送金照会 |
MT295 | MT296 | トレード関連 | 外貨約定や決済遅延の確認 |
MT795 | MT796 | 信用状関連 | L/C条件変更や通知確認 |
MT995 | MT996 | 顧客口座関連 | 残高・取引状況の確認 |
カテゴリ1~9における、MTx95/MTx96の利用範囲
x95/x96メッセージは、SWIFTメッセージのすべてのカテゴリ(MT1xx〜MT9xx)に対応しています。
カテゴリごとに用途や送信主体が異なりますが、共通して「定型メッセージで伝えきれない確認・修正・補足情報」を扱う点が特徴です。
以下の一覧では、実務上の使用頻度・発信主体・代表的な照会・回答内容を整理しました。
カテゴリ | クエリ/回答 | 主な対象業務 | 使用頻度 | 主な発信主体 | 代表的な照会・回答内容 |
---|---|---|---|---|---|
MT195 / MT196 | 支払関連 | 国際送金・資金移動 | ★★★★★ | 発信銀行/コルレス銀行 | 着金確認、誤送金照会、為替レート確認、資金追跡(Tracer) |
MT295 / MT296 | トレード関連 | 為替・トレード決済 | ★★★★☆ | トレード部門/カストディ銀行 | 決済指示の整合性確認、約定ミスの訂正依頼 |
MT395 / MT396 | トレジャリー関連 | デリバティブ・FXスワップ | ★★★☆☆ | 財務部門(Treasury) | ポジション差異の確認、決済日変更の問い合わせ |
MT495 / MT496 | 証券関連 | 証券決済・保管 | ★★★★☆ | カストディ銀行/決済銀行 | ISIN誤記訂正、決済日・残高照会 |
MT595 / MT596 | デリバティブ取引 | 外為予約・先物・スワップ | ★★★☆☆ | 財務部門/取引銀行 | 契約条件の照合、レート適用日の再確認 |
MT695 / MT696 | コモディティ・貴金属関連 | 商品取引決済 | ★★☆☆☆ | 商品取引銀行/仲介銀行 | 出荷証明書・船積書類の照会、数量差異の通知 |
MT795 / MT796 | 信用状(L/C)関連 | L/C・スタンバイL/C・保証 | ★★★★★ | 通知銀行/発行銀行 | 修正通報確認、条件変更の可否、通知未達の確認 |
MT895 / MT896 | 銀行間報告関連 | 銀行間残高・取引報告 | ★★★☆☆ | コルレス銀行/中央銀行 | 日次報告内容の差異、照合エラーの修正 |
MT995 / MT996 | 顧客口座・現金管理関連 | Cash Management | ★★★★☆ | 顧客銀行/本店オペレーション部 | 残高照会、入出金未反映の確認、顧客指示の再確認 |
高頻度カテゴリ(195/196・795/796)
国際送金・信用状関連の分野では、x95/x96の使用頻度が最も高い。特にL/C関連では「条件修正」「通知未着」など、日常的な運用確認に使われます。
低頻度カテゴリ(695/696など)
コモディティ取引など限定的な分野では、取引件数が少ないため利用頻度は低め。ただし金額規模が大きく、1件あたりの重要度は高い傾向があります。
共通点
いずれのカテゴリでも :20: と :21: の参照番号フィールド によって、関連取引を紐づけて管理。
:79: フィールド にて自由記述で詳細照会・回答が可能(ただし簡潔・明瞭に記載するのが実務慣行)。
メール・FAX・電話などと異なり、SWIFT通信として記録・監査可能 である点が大きな強み。
送信銀行 ──(MT195:照会)─▶ 受取銀行
送信銀行 ◀─(MT196:回答)── 受取銀行
※ 信用状の場合も同様に MT795 ⇔ MT796 が対になり、発行銀行と通知銀行の間で条件確認・修正合意が行われます。
x95/x96が果たす実務上の意義
x95/x96シリーズは、単なる照会・回答にとどまらず、国際金融ネットワークにおける安全な意思疎通の基盤を担っています。ここでは、銀行・企業・コンプライアンスの3つの視点から、その実務的な意義を整理します。
① 銀行の視点:正式かつ追跡可能な「記録型コミュニケーション」
銀行間の業務では、日々大量の送金・信用状・為替・証券決済が行われています。その中で誤記・遅延・未着などが発生した際、メールや電話では法的な証拠として残りません。x95/x96を利用することで、以下のような効果が得られます。
- 全通信がSWIFTネットワーク内に記録される
→ 各メッセージに固有の参照番号(:20:, :21:)が付与され、追跡可能。 - 送信日時・受信日時がシステム上で自動管理される
→ 「誰が・いつ・何を照会/回答したか」を監査証跡として保持可能。 - 部門間の連携効率が向上
→ コルレス部門・貿易部門・オペレーション部間の情報共有を一元化できる。
例:SWIFT Trackerとの連動により、送金遅延を自動通知し、対応履歴をシステム上で紐づけるケースも増加しています。
② 企業(輸出入業者)の視点:国際取引の透明性・迅速性の確保
企業側(特に輸出者・輸入者)は、銀行経由での取引状況確認を行う際、従来は時間差や誤解によるリスクを負っていました。x95/x96の仕組みを通じて、企業は以下の利点を得られます。
- 送金・信用状の状況がリアルタイムで把握できる
→ 「送金済/入金済」「L/C修正済」などをSWIFT経由で即確認可能。 - トレーサビリティの向上
→ 問い合わせと回答がペアで記録されるため、契約トラブルの防止につながる。 - 内部統制・監査への対応力強化
→ 海外支店・取引先とのやり取りを記録し、後日社内報告書として転用可能。
例:輸出者が「L/Cの修正が通知銀行に届いたか」をMT795で照会し、発行銀行がMT796でAmendment No.3 received」と正式回答。このやり取りが取引証拠として契約書添付資料に使われるケースもあります。
③ コンプライアンスの視点:内部統制・AML(マネロン対策)の強化
SWIFT電文の照会・回答履歴は、コンプライアンスチェックにおいても極めて重要です。特にマネーロンダリング(AML)や制裁スクリーニングに関して、照会履歴が「取引正当性の証拠」として活用されます。
- 疑義取引の確認・報告プロセスの明確化
→ 送金先・名義・目的などに疑義が生じた際、MT195で照会を行い、
回答内容をもとに取引継続可否を判断。 - 異常検知のエビデンス確保
→ x95/x96のやり取りが監査ログとして残るため、後日調査時に参照可能。 - FATF・各国規制当局への説明責任の履行
→ 「照会を実施し、銀行間で正式回答を得た」ことが内部統制上の裏付けとなる。
補足:多くの国際銀行では、x95/x96通信も自動的にAMLモニタリング対象としてスキャンされ、制裁リスト照合・不正送金防止の一部として運用されています。
まとめ:実務上の意義
視点 | 役割 | 実務効果 |
---|---|---|
銀行 | 記録性・監査性の高い照会ルート | トレーサビリティと迅速対応 |
企業 | 取引の透明化・情報遅延の防止 | 契約トラブルリスクの軽減 |
コンプライアンス | 照会履歴による取引正当性証明 | AML・内部監査の裏付け強化 |
x95/x96は、単なる「質問と回答」ではなく、グローバル取引の信頼性を維持するための通信インフラといえます。メールより早く、電話より確実に、そして紙より強い証拠を残す――それがこのシリーズの最大の価値です。
サンプル:MT795/MT796(L/C関連照会と回答)の場合
信用状(Letter of Credit: L/C)取引では、条件修正・通知未着・書類不備などの確認連絡において、MT795(Query) と MT796(Answer) が頻繁に利用されます。これらは、発行銀行と通知銀行の間で「正式な往復書簡」として機能します。
MT795:Query Message(信用状の修正確認)
{1:F01BNKAJPJTAXXX1234567890}{2:I795BNKBUS33XXXXN}{4:
:20: LC-2024-0589
:21: MT700-20241001
:79: We refer to our L/C No. LC-2024-0589 issued on 01 Oct 2024.
Please confirm whether the latest amendment (No.3) has been received and is effective.
If not received, kindly advise the expected date of receipt.
Best regards,
CONFIDENTIAL BANK JAPAN
-}
日本語に訳したもの
2024年10月1日発行のL/C番号 LC-2024-0589 につきまして、
最新の修正第3号が通知済みか、または有効となっているかご確認ください。
未通知の場合は、到着予定日をご教示願います。
敬具
CONFIDENTIAL BANK JAPAN
この照会は、通知銀行が「修正電文が届かない」「顧客に伝達できない」場合などに発行します。文中の :21: フィールドでは、元の信用状(MT700)との関連性を明示し、どの修正(Amendment)を確認しているのかを明確にしています。
MT796:Answer Message(修正通知の回答)
{1:F01BNKBUS33XXXX1234567890}{2:I796BNKAJPJTAXXXN}{4:
:20: LC-2024-0589
:21: MT795-20241003
:79: Amendment No.3 for L/C No. LC-2024-0589 was received on 05 Oct 2024
and is now effective as of the same date.
Please note that the amendment has been advised to the beneficiary accordingly.
Sincerely,
CONFIDENTIAL BANK USA
-}
日本語に訳したもの
L/C番号 LC-2024-0589 に関する修正第3号は、2024年10月5日に受領済みであり、
同日付で有効となっております。
受益者へもすでに通知済みです。
敬具
CONFIDENTIAL BANK USA
回答電文の中で :21: には、対応する照会電文(MT795)の参照番号を記載します。これにより「どの質問に対する回答なのか」が明確化され、照会履歴を追跡できます。同様の形式は、信用状以外のカテゴリ(MT195/196など)でも共通です。
照会・回答の対応構造
通知銀行 ──▶(MT795:照会)──▶ 発行銀行
通知銀行 ◀──(MT796:回答)◀── 発行銀行
電文種別 | 発信者 | 受信者 | 主な目的 |
---|---|---|---|
MT795 | 通知銀行 | 発行銀行 | 修正通知の到達確認、条件内容の確認依頼 |
MT796 | 発行銀行 | 通知銀行 | 修正内容の確認回答、通知済み報告 |
MTx95/MTx96まとめ

x95/x96シリーズは、すべてのSWIFTカテゴリに共通する照会と回答の通信プロトコルです。送金・信用状・証券・現金管理など、どの分野でも“定型メッセージでは伝えきれない情報”を安全にやり取りできる仕組みを提供しています。
要点整理
観点 | 内容 | 実務でのポイント |
---|---|---|
機能 | x95=照会(Query)、x96=回答(Answer) | どちらも:20:と:21:で関連メッセージを明示することが基本 |
使用範囲 | MT195〜MT996まで全カテゴリに存在 | 支払、信用状、証券、顧客照会などで横断的に活用 |
特徴 | 自由記述型(:79: Narrative)で柔軟 | 明確・簡潔・誤解のない表現を心がける |
利点 | 記録性・信頼性・即応性 | 口頭やメールよりも法的エビデンスとして有効 |
対応関係 | x95 ⇔ x96 がペアで完結 | 質問と回答の両方をSWIFT上で一元管理 |
実務上のアドバイス
- 照会の発信は迅速に、内容は簡潔に。
曖昧な表現や複数の質問を1通に詰めると回答が遅れる原因になります。 1照会1テーマが原則です。 - 回答の際は必ず関連参照番号(:21:)を記載。
どの照会に対する回答かが明確でなければ、監査記録が無効化されることもあります。 - 誤送信防止のチェックを徹底。
SWIFTメッセージは送信後の修正が困難なため、宛先BIC・メッセージ種別を必ず確認しましょう。 - コンプライアンスとの連携を意識。
疑義取引や制裁対象の可能性がある場合、MT195照会を通じて正式な確認ルートを確保しておくことで、 後の説明責任を果たしやすくなります。 - 対応スピード=信頼性。
国際取引では、数時間の遅れが取引損失や信用低下につながることもあります。
x95照会を受けたら、できるだけ同営業日内にx96回答を返すのが理想です。
x95/x96は、表向きは「単純な質問と回答」ですが、実際には国際金融取引の神経回路のような存在です。定型化されたMT103・MT700などの背後で、各当事者がリアルタイムに確認・訂正・補足を行うことで、世界中の資金・信用・書類が安全かつ正確に流通しています。