(LOIからSPAまで)
国際取引、とくに数百万ドル規模に及ぶような大口取引では、単純に「注文書と請求書」だけで進むことは稀です。実務では契約締結・履行に至る前段階で、複数の文書を通じて条件の調整や意思確認が行われます。さっそくですがここで、契約締結までの代表的な流れを実例とともに紹介します。
1. LOI(ICPO)―買主の意思表示
Letter of Intent / Irrevocable Corporate Purchase Order
- 買主が「この商品をこの条件で買いたい」という意向を示す書面
- 数量、価格レンジ、希望条件、納期などを記載
- 法的拘束力は弱いが、買主が本気であることを示す第一歩
- 取引の出発点となり、売主はこれをもとにオファーを準備する
実務例(LOI)
中東の燃料を購入したいアジアの買主が、年間200万バレル規模の軽油購入についてLOIを中東の売主へ提示。LOIで提示されたのは「希望価格帯」「受渡港」「信用状(L/C)での決済希望」でした。
2. SCO ―売主の暫定オファー
Soft Corporate Offer
- 売主が「この条件なら販売可能」と提示する初期オファー
- 価格・数量・仕様などは暫定的(=“soft”)で、買主の条件に応じて調整可能
- LOIとのすり合わせにより、現実的な商談ベースを作る段階
実務例(SCO)
LOIを受けた売主は、暫定価格と供給可能数量を記したSCOを発行。
ここで「輸送はFOB港渡し」「価格は市場連動制」という条件が追加され、買主との条件調整が始まりました。
2.5 条件調整の交渉プロセス
SCOの提示を受け取った後、スムーズにFCOが提出されることもありますが、多くはすぐにFCOが出されるわけではありません。多くの場合、買主と売主の間で条件調整の交渉が入ります。
この段階で調整されやすいポイント
- 価格:市場価格の変動や数量に応じて再交渉
- 数量:売主の供給能力、買主の調達計画に基づき上下する
- 納期:船積みスケジュールや港湾混雑を踏まえて修正
- 決済条件:LCかDLCか、確認銀行の有無、保証金の要不要など
- 規制:輸出入国の規制
- 書類:信用を証明する書類、その他の必要書類(原産地証明など)の調整
実務例(条件調整)
燃料取引では、SCO提示後に「数量を毎月20万バレル → 15万バレルに修正」「価格を指標+3ドル → 指標+2.5ドルに調整」といった交渉が行われました。また、買主側が「確認銀行付きL/Cでなければ応じられない」と条件を追加し、売主側はそのコストを価格に上乗せして再提示することになりました。
条件調整には多くの時間を費やすことがあり、数週間〜数か月に及ぶことも多々あります。しかし、契約内容に影響を与える部分にあたるので交渉の核心部分になります。多くの引き合いがありますが、このあたりで取引がブレイクすることは多々あります。
3. FCO ―売主の正式オファー
Full Corporate Offer
- 売主が正式に提示する本格的なオファー文書
- 価格、数量、納期、決済条件、輸送条件など、取引の骨子を具体的に明記
- ここまで来ると「相手が合意すれば契約に進む」レベルの重みを持つ
- バイヤーはここで最終条件の確認・交渉を行う
実務例(FCO)
諸条件の調整をクリアすると最終的に、売主からFCOが提示されました。
そこには「毎月◯バレルを◯年間供給」「決済は一流銀行発行のDLC(譲渡不能信用状)」といった具体的な取引条件が明記。
ここまで来ると、買主は自社のリスク管理部門や銀行と協議し、受け入れるかどうかの判断に入ります。
このFCOに買主がサインし、売主へ送付することで次のステップ、契約締結に進みます。
4. SPA ―売買契約の締結
Sales and Purchase Agreement
- 双方が合意した内容を法的拘束力を持つ契約書としてまとめたもの
- 決済手段(L/CやSBLCなど)、納入スケジュール、違約条項などを詳細に規定
- ここで初めて正式な契約が成立し、履行(決済・輸送・納入)へ進む
- この段階までの交渉が大口取引では最も時間を要する部分
実務例(FCO)
双方がFCOの内容に合意(買主がFCOにサインし、売主へ送付)すると、売主はFCOに基づいたSPA(売買契約書)を作成し、買主へ送付します。
契約には「シンガポール仲裁条項」「遅延時の違約金」「確認銀行付き信用状を必須」といった条件も盛り込まれ、これでようやく契約は正式に成立。ここから履行(L/C開設、輸送手配)へと進んでいきます。
まとめ
大規模な国際取引では、
- LOI(ICPO)=買主の意思表明
- SCO=売主の暫定オファー
- FCO=売主の正式オファー
- SPA=双方合意の契約書
という流れで段階的に進みます。これらを経ることで、双方が安心して取引を履行できる基盤が整うのです。